佐藤優・魚住昭 「ナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りき」

ナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りきナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りき
佐藤 優 魚住 昭

朝日新聞社 2006-12
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…(佐藤優は「国家の罠」において)いわば国家を愛しながら平然と突き放すという離れ業をあっさりやってのけている(249p)

…常に自分の位置と意識に距離を設けて眺め、分析する態度は、佐藤氏の、情報の専門家としての倫理によるもの(評論家・福田和也氏の発言、252p)

 この佐藤氏の姿勢は本当に見習いたい。常に自分の置かれた状況と自分の心情、相手の置かれた状況と心情を把握し分析して、自らの態度を決めていくという佐藤氏の方法論は、近代の知識人に不可欠な素養と考える。なかなかできる人は少ないが。わたしも、どうしても対象に対する思い入れが強くなってしまい、対象と自分との距離感や、自分の置かれている状況が見えなくなり、感情的になったり、冷静な判断ができなくなったりする癖のある。恥ずかしい話だ。偽メール問題で辞職した永田寿康衆議院議員にように、すぐ熱くなりプライドだけ高いタイプの人物にならないように自己鍛錬が必要だ。
 この佐藤氏の方法論に関連するが、佐藤氏の文章を読んでいて感じることは、①常に自分の価値観を明確に意識して、その立ち位置から見える現状について分析している、②そしてその組み立ては非常にロジカル(論理的)である、ということだ。この佐藤氏の方法論は、社会学における客観性や科学性の議論に通じるところがあり、もっと言ってしまえばマックス・ヴェーバーの「価値自由」や「理念型」という概念と重なる部分が多い。だからこそ佐藤氏の発言は格段の説得力をもつ。佐藤氏は「獄中記」において、ウェーバーの「目的合理性」等の話を持ち出しているので(獄中記:102-103p)、既にウェーバーの議論はしっかり押さえているのかもしれない。

情報源を獲得するには、相手の性格や考え方、行動パターンを掴む必要がある。つまりその人物を動かしている内在論理に入り込まねばならない。そして、そこから得られた情報を分析するには相手の内在論理から脱出する必要がある。情報活動とはINとOUTの作業の繰り返しなのである。おそらく佐藤さんはその作業を無数に繰り返して独特の思考法を身につけたのにちがいない(251-252p)

 レベルの高い話だ。訓練、鍛錬。ひらすら努力しなければ同じ次元に近づくことは難しい。

実はファシズムって定義しづらいものなんです。後から振り返ってみて、ああ、あれがファシズムだったんだなと。…その渦中にいる当事者には気づきづらいものであもあります(82p)

 これを鵜呑みにすると、ファシズムはバブル景気と同じだな。バルブがはじけて、やっとああ、あれはバブルだったんだなと気づく。あのニュートンだってイギリス経済のバブルで大損したのだから…。

ファシズムは国民大衆に「清潔な政府」というスローガンを掲げ、正義感に訴え、革命や改革を実現する政治勢力であるとイメージづける。(83p)

 佐藤優の分類で「キレイな鷹」と「汚れた鳩」という分け方に従えば、「キレイな鷹」の方がファシズムに近いんだな。

国民は一つの共同体として想像される。なぜなら、国民のなかにたとえ現実には不平等と搾取があるにせよ、国民は、常に、水平的な深い同志愛として心に思い描かれるからである。(100p、ベネディクト・アンダーソン「想像の共同体 ナショナリズムの期限と流行」)

 アンダーソンの国家論については、この前の札幌旅行で「想像の共同体」を購入したので、じっくり取り組もう。

ホリエモンの「稼ぐが勝ち」「カネで買えないものはない」といった発言からそれがうかがえます。こうした発言を聞いた相手がどう受け止めるか、そこから起きる反応が自分にとってプラスかマイナスなのか、ホリエモンはそういう計算ができなかったのではないでしょうか。相手の内在的論理が理解できない人のように私には見えます。(126p)

国家の目的は何かというと、自己保存なんです。(127p)

 自衛隊の海外派遣、憲法改正など国家のシステムが動き出すようなことに対しては、左派・市民派は敏感ですね。ところが貨幣の問題になると恐ろしく鈍感になる。たとえば、左派の文化人は高い原稿料で文章を書くとか、高い講演料をもらうことに関しては罪悪感がないし、むしろ、自己が高く評価されたのではないかと思っているように見えます。
 一方、右派の人たちは全体的に金離れがいいんです。お金によって人が支配されるということに対する抵抗感が結構強い。お金以外の価値が重要なんだと言う。しかし、左派・市民派とは逆に「国家」や「民族」を神聖視して、そこが行使する「暴力」に対しては恐ろしく鈍感なんですね。(27p)

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