東野圭吾「麒麟の翼」(講談社文庫)

​ ​東京の日本橋​。橋に設置された2体の​麒麟像​の下で、死体が発見された。​​​すぐに捕まった無職の若者​は交通事故で意識不明の重体​。恋人は被疑者の無罪を主張する。​警察やマスコミは、被害者=会社の管理職、被疑者=元従業員という雇用問題にその原因を求めるが…。​

​ 東野圭吾の代名詞の一つである刑事・加賀恭一郎が登場する「​加賀シリーズ」の一つ。加賀は、簡単な事件という楽観論が広がる中で、現場周辺の徹底した聞き込みと鋭い洞察力によって真実に近づいていく。被疑者の恋人に寄り添い、弱い立場の人たちを守ろうする、加賀の人間的な優しさも本書の魅力の一つ。

「あんたは何が悪いか分かっていない」

​ 加賀のこの一言は、加害者サイドの心を打ち砕く力を持った言葉だ。​

​ ​東野のもう一つの​代名詞である「​ガリレオ・シリーズ​」​の​主人公​・湯川学が​、​帝都大学の物理学の先生で、科学​理論​によって犯罪に迫っていくのに対して、加賀シリーズ の加賀は、​出先に在籍する現場の刑事。​徹底した現場調査によって 真理に近づいていく​手法を得意としている。

 理論と現場。

 対照的な2つの個性を、事件に応じて巧みに操って物語を作り上げていく、東野圭吾の才能には脱帽するばかり。