日本の経済政策はいかにあるべきか(安倍政権とトリクルダウン理論)

 安倍晋三政権の打ち出した税制改正が、「大企業寄り」と批判を集めている。特に大手メディアは、企業に優しくて庶民に厳しい安倍晋三というラベリングで新政権を批判をしたがっている。格差社会というキーワードが大きく社会問題となるなかで、労働者や庶民の生活を底上げする政策を打たずに、未だに企業重視の政策を出していることが批判のポイントである。安倍政権の打ち出した税制改正が本当に「企業寄り」なのかは、個別の中身(減価償却制度など)を慎重に検討する必要があるが、仮に企業寄りだったとしても、企業寄りの経済政策が庶民にとって本当に悪いのかどうかは、一度立ち止まって、真剣に検討する必要がある。
 経済学の世界で、トリクルダウン理論という考え方がある。トリクルダウン理論(trickle-down theory)とは、減税などの政策を打って、企業や富裕層のやる気を起こさせれば、経済活動が活発になって富が蓄積され、その富の滴が徐々に中流下流層にしたたり落ち、結果として国民全体の利益につながるという考え方である。アメリカのレーガン元大統領は、この理論を根拠に、新自由主義的な政策を次々と打ち、経済の活性化をはかった。社会知を持つ方はすでにお気づきのことと思うが、このトリクルダウン理論は、政府のお金を公共事業や福祉などで国民(特に低所得層)に直接配分するような、いわゆるケインズ主義とは対極にある理論である。もちろんマルクス主義とも対極だ。言い換えれば、富の再分配をする手法として、ケインズ主義のような行政による再分配は非効率でうまくいかないため、自由で活発な市場に任せる形にした方がいいというものだ。
 なるほど、トリクルダウン理論にも一定の説得力はある。われわれ日本人はバブル崩壊後の失われた10年の間に、企業が元気を失ったときの労働環境の実態、庶民生活への影響を切実な思いで知っている。企業は赤字に苦しみ、給料を減らし、リストラをおこない、いつでもクビを切れるパート労働者を増やした。派遣、フリーターの急増は社会問題化した。企業の元気がなければ、サラリーマンたる庶民の生活も不安定になる。そう考えると、企業活動を活発化させるマクロ経済政策を打ち、企業を元気にすることは、庶民の生活安定のためにも必要となる。このような意味で、安倍政権の「企業寄り」と言われている政策も、労働者や庶民のことを軽視しているのかどうかは疑問に感じる。
 しかし昨今の経済情勢をみるとどうであろうか。大企業は銀行、自動車、鉄鋼など、過去最高収益をたたき出している。トヨタ自動車などはゼネラルモーターズGM)を抜いて世界一になる日も近いとさえ言われている。海運関係、新日鉄など鉄鋼の景気の良さもハンパではないと聞く。しかし1部上場企業は絶好調かもしれないが、そのほかの中小企業はどうなのだろうか。一部上場企業でも、正社員以外のパートや派遣職員の待遇や賃金は改善されているのであろうか? そのような話はほとんど聞かない。一部の大企業の高収益に支えられる形で景気が良いように見えるが、実態はそれら利益は企業自身や投資家にまわり、庶民や労働者まで還元されていないのではないだろうか。トリクルダウン理論が想定しているような、富の滴が徐々に中流下流層にしたたり落ちる展開がほとんど見られないのである。
 一部の与党議員の説明を聞くと、企業もやっと元気になってきたところなので、労働者への利益還元はこれからだ、焦らずもう少し待ちなさい、という。しかし一方で、経済界のドンたちは、ますます激化する国際競争の中で、日本人の賃金は高すぎると嘆いている。本当に賃金や待遇が今後改善されるのかどうか、慎重に見ていかなければいけない。
 結論。今の私の枠組みから整理すると、安倍政権に期待するマクロ経済政策は、一つはトリクルダウン理論に基づく減税など企業優遇、そして忘れてはならない2つ目は、中小企業のサラリーマンや非正規雇用の職員の待遇改善や賃金アップをうながすような、つまり全体の底上げをねらう政策を実施してほいいと考えている。
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