「21世紀の倫理を考える②」(勉強会での発言要旨)

3.伝統的な民主主義批判

 民主主義批判は、何もわたしが最初なわけではなく、哲学や社会科学などの分野では伝統的におこなわれてきました。
 古いものでは、古代ギリシャの哲学者のプラトンの批判が有名です。古代ギリシャアテネで行われていた政治は直接民主主義の政治だったのですが、その体制がプラトンの師匠のソクラテスを死刑にしてしまうのですね。デタラメな悪いうわさを流され、公開裁判で死刑になるのです。これを見たプラトンは、民主主義などは衆愚政治だ! 愚か者たちの政治だと喝破します。
 実は、ヨーロッパではその後、長くこのプラトン発言の影響を受けて、民主主義思想はその影響力を失ってしまうんですね。再度、ヨーロッパで民主主義思想が日の目を見るようになったのは19世紀。アメリカで成功し、それがトクヴィルの「アメリカの民主政治」という著書でヨーロッパで紹介され再評価されるわけですが、それまで2000年以上のあいだ、民主主義はヨーロッパで影響力を失っていたのです。今だけ見ていると、民主主義って絶対価値のように見えますが、歴史的に見ると不遇の時代も長かったわけです。

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 19世紀のドイツの思想家のニーチェも、民主主義を痛烈に批判します。ここでは詳しくは触れませんが、ニーチェは「弱者のルサンチマン」という有名な概念を提出し、人権や平等や民主主義などの近代社会、そしてその基礎となっているキリスト教を徹底的に批判するのです。

4.現代の日本の民主主義は健全なのか?

 もちろんプラトン時代の民主主義と、現代の民主主義では人権に対する考え方の違いなどの文脈の相違がありますので一概に比較できませんが、しかし果たして現代の民主主義は健全に機能しているか、これもまた疑念を抱くわけです。
 衆議院議員だった鈴木宗男さんが逮捕された事件をご記憶の方も多いでしょう。あの騒動の際に一緒に逮捕された、元外務省国際情報局主任分析官・佐藤優さんが最近、「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」というタイトルの面白い本を出しています。その中で、外交官の同僚の発言で、「日本人の実質識字率は五パーセントだから、新聞は影響力を持たない。ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で物事は動いていく」という発言があるんですね。この指摘は、日本の現状を正確に捉えた発言ではないでしょうか。

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 「ワイドショー政治」などとも呼ばれたりしていますが、テレビのワイドショーの、スキャンダリスティックで、ヒステリックな報道を真に受けてしまった国民が世論を作り、それが政治決定に多大な影響を与えている状況ではないでしょうか。
 ここで「民主主義を健全に機能させるにはどうしたら良いか」という問題設定をして議論をすすめることにします。もちろん民主主義思想などは大した思想じゃないので、今後は別の枠組みで考えるべきだ、という議論のたて方も可能だと思いますし、わたしもその方向性での議論も考えていたりもするのですが、今回は、話を複雑にしないためにも、「民主主義機能させよう論」のみに焦点を当てて話をしたいと思います。
「民主主義を健全に機能させるにはどうしたら良いか」
 そこはやはり国民がいかにしっかりとした倫理観をもつことができるか、国民の民度の向上がキーとなるわけです。国民がしっかりとした倫理観をもって情報を分析し、判断し、社会にアプローチしていくことが重要となります。
(つづく)

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