「21世紀の倫理を考える③」(勉強会での発言要旨)

 そこで21世紀の倫理ですが、今回は、わたしが重要と考える規範を3つピックアップし紹介して、これからの社会の倫理を考える題材としたいと思います。規範モデルの紹介は、対立するモデルとの比較の中で説明したほうが分かりやすいと考えましたので、ごらんのように整理させていただきました。

  規範モデル           対立モデル
① 自立した個           脳みそ預けたロボット君
② 「あえて」やる前向きさ    しらけムードのニヒリスト
③ 積み上げ型理想家      理想まっすぐ飛躍君

 まず①として「自立した個」という規範、対立モデルとして「脳みそ預けたロボット君」です。次に②として「『あえて』やる前向きさ」という規範、対立モデルとして「しらけムードのニヒリスト」です。次に③として「積み上げ型理想家」という規範、対立モデルとして「理想まっすぐ飛躍君」です。順を追って説明させていただきます。

5.「脳みそ預けたロボット君」モデル

 まず①は「自立した個」という規範です。
 この規範については、対立モデルの「脳みそ預けたロボット君」の話から説明を始めたいと思います。このモデルについては、近年の新興宗教の信者を見ていると強く思いますね。6,7年くらい前に、ワイドショーを騒がせたライフスペースという、団体をご記憶の方も多いと思います。 「定説です」を連発する、高橋という方が代表を務める団体ですが、信者の死亡を放置した罪で逮捕されてしまいます。高橋代表は、記者会見でも「私の身体には血は一滴も流れていない」というような発言をするなど、われわれが共有する科学という「定説」から見れば理解に苦しむことを言うわけですが、それでもそれを信じる信者が存在し、団体として成立するわけです。
 同じ頃に、法の華三法行という団体もいましたね。福永法源という方が代表で、「みなさぁぁぁん、最高ですかぁぁ…!」と絶叫する、なかなか面白い団体です。当時は「足裏診断」などがクローズアップされて、批判されていました。その他にも、オウム真理教などもありますし、新興宗教ネタは尽きないわけです。
 このような団体の信者の方のコメントを聞いていますと、他者や社会に対してどれだけ批判的な視点が持てているのか、非常に疑問に思うわけです。自分の頭で考え、自己のうちに規範を見出す作業をどれだけできているのか、疑問に思うわけです。自分でモノゴトを考えることを放棄してしまい、他者や周囲の言説や意向に安易に従ってしまっている傾向が強いのではないかと危惧するわけです。
 しかしながらこのようなタイプはわれわれの身近にけっこういるかもしれません。自分で考えることもせずに、「みんなやってるからやらないと」「あの人がこう言っているから」とかが口癖になっている人。わたしはこのようなタイプの人を「脳みそ預けたロボット君」と呼んでいます
 もちろん生活のすべてにおいて自分の頭で考えて行動するは難しいのは確かです。ほとんどの人はそれをするだけの十分の時間を持っていませんし、組織の中で仕事をしている人なんかは、「おかしいな」「違うよな」と思っても、時には我慢して従わざるを得ない場面もあると思います。だけど、もちろんそのような例外もあるのですが、それにしてもプライベートも含め、自分の頭で考えることを忘れてしまった人が結構なボリュームでいるような気がします。

6.「自立した個」という規範

さて、ここで冒頭の民主主義の議論にひきつけて考えてみたいと思います。考えてみてください。そんな「脳みそ預けたロボット君」ばかりの日本になってしまったら、そこで民主主義やられたら日本はどうなってしまうのでしょうか。安易に従う人ばかりの社会になってしまったら、それが民意になってしまったら、とんでもないトップが選ばれて、とんでもない政策をやられてしまう可能性だってあります。
 昔わたしはカンボジアポルポト政権の内実を調べていた時期があるのですが、ポルポトは、1975年から4年間の間で、わけのわからない、勝手な共産主義理解をして、むちゃくちゃな政策をして、200万人以上の国民を死に追いやってしまうのです。カンボジアの国民の1/3が亡くなったとも言われています。このような社会が果たして「幸せな社会」なのでしょうか。もちろんポルポトは民主制によって選ばれたトップではないのですが、ここでは、トップを間違えるとこんな悲劇を招く、という一例で紹介しました。

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 このような事態にならないように、われわれには「自立した個」という規範が必要ではないかとわたしは考えます。「自立した個」という規範とは、ものごとを自分の感性に照らし合わせ、自分の頭で考えて、自己のうちに規範を見出し、行動するスタンスのことです
 この規範にはわたしなりにモデルがいまして、それはわたしが学生時代に出会った恩師です。ここではA先生と呼ぶことにしますが、その先生は生態学で有名な方で、最近ではメディアにも頻繁に露出して活躍している先生ですが、学生時代にわたしはA先生に徹底的にシゴかれました。とにかく毎日のようにA先生から「権威を疑え!」とか、「自分の頭で考えて自分の言葉で喋れ!」とかガンガン絞られました。A先生は口で言うだけではなく、行動が伴う、稀有な有言実行の人でした。これぞまさに「自立した個」だな、と思います。
 いずれにせよ、民主主義を健全に機能させるためには、「脳みそ預けたロボット君」モデルではなく、A先生のように批判精神を備えた「自立した個」モデルでなくてはならないだろうと思うわけです。
(つづく)
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