佐藤優「国家の謀略」

国家の謀略
国家の謀略佐藤 優

おすすめ平均
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◎池田徳眞「プロバガンダ戦史」の原則から見る小泉自民党の圧勝の理由(68ー70p)

守勢法と攻勢法
 選挙で民衆の心を掴むには、高度の攻撃精神が必要。小泉は「改革を止めるな」と攻勢法をもちいた。 
受動法と能動法
 敵の宣伝攻勢に対して弁解したり説明したりするのは下の下。敵の宣伝の誤謬、食い違い、欠点等を指摘するのも上策ではない。小泉は、岡田民主党代表の批判を事実上無視し、自分の言いたいことだけを語った。
一回法と反復法
 スローガンは常に反復し、焼き直して利用する。小泉は「郵政民営化構造改革」を繰り返した。 
抽象法と具体法
 抽象法はできるだけ避ける。地域に密着した郵便局をテーマに身近な話題を選んだ。
理性法と感情法
 小泉首相は感情法で国民一般に訴え、竹中大臣は理性法によって有識者に説明するという役割分担。民主党は理性法のみで有識者と国民一般を分けなかった。

 池田氏プロパガンダ原則と小泉前首相の実践を見ていくと、一般国民の人気を得る最良の技法は、「攻勢法」「能動法」「反復法」「具体法」「感情法」ということになる。攻撃的で、分かりやすく、庶民の感情に訴えるようなテーマを選ぶことがポイントであろう。ドイツの独裁者「アドルフ・ヒットラー」もこの手法を用いた。
 しかしこの複雑な成熟社会においては、そもそも物事はこんがらがり利害は錯綜し、それほど単純に分かり易くなど社会問題は語れないはずだ。
 そんな状況下で分かりやすく政治を語ることができた小泉純一郎前首相は、物事は分かっているが大衆受けするために演技としてわざとやっているか、それとも物事がまるで分かっていない、ただのおバカさんのどちらかなのだろう。印象的に言えば、小泉氏は前者で確信犯的にやっていたように見えた。
 ウソがつけない演技ができない、真面目で誠実な政治家にとっては辛い時代だ。岡田元民主党代表などはこの部類に見える。今の福田首相もそうかもしれない。
 しかし逆からみれば、「感情法」や「反復法」にコロッと引っかかってしまう一般大衆っていったい何?とも思ってしまう。社会の複雑性を感じ取る感性もなく、自分の頭で考えることをせず、演技がうまい政治家に吸引されていく国民って、戦前・戦中の国民とどれだけ進歩しているのだろうか? 果たして国民は近代化以降、進歩しているのだろうか? いや、 古代ギリシャの哲学者のプラトンが当時の状況を嘆き「衆愚政治」と民主主義批判をしたように、古代ギリシャの時代の国民レベルと今のそれとあまり変わらないのではないか。
 やはり教育か? 学習か? 革命か? そんな議論もずっと日本の社会科学はしていますね。そしてそこから止まってますね。

弱みとは、本人が弱みと思った瞬間に弱みになる。(146p)

酒にしてもセックスにしても人間の欲望には限度がある。しかし、カネについてはこのような限度がない。…人間の欲望で最も強いのは生命欲で、そこにつけ込むのがいかに効果的かをヒュミント専門家は熟知している。ヒュミント専門家が腕利きの医師と人脈を作ることに腐心するのも、医師を紹介することで協力者を獲得できるからである。(146-147p)

協力者となりうる者の良心と日本の国益が噛み合うような上手な連立方程式を組み、その解をヒュミント専門家と協力者が共に追求するという手法が日本流ヒュミントだ。明石工作ならば、帝政ロシアで圧迫された少数民族の解放と日本軍の勝利という連立方程式である(147p)

 謀略とは「誠」「愛」である。

 もっとも人間の心理は、自ら他者への「貸し」は実際よりも大きく、他者からの「借り」は実際より小さく感じるという認識の非対称的構造があるので、実際にはヒュミント専門家が8割、協力者が2割程度を経済的に負担するのが理想的だ。…協力者に「運営されている」という意識をそれ程もたせずに、自発的に協力しているパートナーであるとの「物語」を維持することがよい情報を得るためには不可欠である。(148-149p)

・学者に工作をかける場合
 相手に警戒心がある場合はなおさら緊張を解きほぐす必要がある。
 その学者の主要な著書に目を通し、学者の自分の主張を理解してもらいたいという欲望につけ込む。カギを握るのは「絶版になった本」。第一回目の接触ではさりげなく相手が自信をもっている言説に水を向ける。熱心に耳を傾け、「もっと詳しく知りたい。良い本があれば貸して欲しい」という。そして絶版本を借り出す。借りた物は必ず返さなくてはならない。ここで第二回の接触が自然と担保される。

 人間の心理として「貸し・借り」はとても重要だ。悪質な訪問販売業者は、まずボールペンや鍋などを客にタダで渡し、その後、高価な商品の契約をとりつけるというスタイルをとることが多いが、これは「借りは返さなくてはならない」という人間の心理に巧みに付込んだ工作なのである。逆に相手に「貸し」があるという意識をもっている人は、その貸しを返してもらうことについてそれほど抵抗感がない。したがって、このような心理を工作対象者にもたせ、食事の席に引き出してくるのだ。(331-332p)

 車のディーラーが試乗記念品としてミニカーや景品などを持たせる方法とまったく同じだな。

共に食事をすることは信頼関係を強化する上で有効だが、逆に食事の席で気まずい思いをすると、そのことが潜在意識に刷り込まれてしまい、関係が構築しづらくなる。(338p)

 飲みニケーションの重要さ。


インテリジェンスの記憶術
・飲み会の場の重要情報は重要な話ごとに指を折って心の中でつぶやく。そして会食が終わった後に、指を戻して記憶の再現を試みる。(334-345p)

記憶術を鍛える方法
①ノートに前日の食事を記録すること
②文章を暗唱すること。好きな小説や詩でも何でも。一日10−15分くらいが理想。