藤原正彦「日本人の矜持―九人との対話」

日本人の矜持―九人との対話日本人の矜持―九人との対話
藤原 正彦

新潮社 2007-07
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小学校において重要なのは、一に国語、二に国語、三,四がなくて五に算数。他の科目はすべて十以下といっていい。(73p)

 藤原正彦氏の評論には、この表現のように、複雑な社会事象をズパッと強引に斬ってしまう物言いが散見される。この特徴は彼の文章のわかりやすさにつながっているが、一方で断定的で乱暴な議論になり科学者らしくない表現の時もある。ジャーナリストで言えば、本多勝一氏の言い方に似ている(もちろん本多氏ほどひどくはないが)。そのような意味で知的レベルが高い人が読むと、説得力に欠ける主張もあり、もう少し冷静に、抑えを効かせながら発言すると説得力が出てくるのになぁと感じる。
 関係ないが、「一に…、二に…、三,四がなくて五に…」という表現の語源はどこからきているのだろうか? どうして3,4を飛ばすのだろうか。リズムの良い言い方だけど。

 佐藤優ファンの一人としては、佐藤氏との対談がやはり面白い。

ロシアでは「口の軽い奴は命も軽い」と言うんですが、そういう習性になっちゃたんですね(113p、佐藤優の発言)

民俗学者柳田国男さんも第一次世界大戦のイギリスのオペレーションに深く関与していたのをご存知ですか。…反ドイツ・プロパガンダの謀略書…を柳田国男さんが名前を伏せて翻訳しているんですよ(130p、佐藤優の発言)

…私は大失敗だと思っている知床の世界遺産登録。あれも(北方四島返還交渉の)有効なカードになりえたんですよ。生態系は繋がっているんだから、知床、北方四島、ウルップ島と、あえてロシア領のウルップ島を入れて、日ロ共同提案の形で世界遺産にするべきだったんです。で、ロシアには極東の自然環境保護をやる余裕はないし、むしろ開発を進めているわけだから、保護者たる資格なしと訴えて結果的には日本が北方四島の管理をもらっちゃうと。(131-132p、佐藤優の発言)

 佐藤氏の発言は知的興奮に溢れている。だから止められなくなる。
 佐藤氏の最後の発言でいえば、日本の国益という観点に立てば、世界遺産登録に際して佐藤的な組み立て方の方が良かったかもしれない。しかし今回の知床登録は、斜里町羅臼町と北海道という地元発の運動であり、地域発展と地域の自然保護という位置づけが強いものだった(ここでの「地域」の中には北方四島は入っていない。実効支配しているのはロシアだから)。従って、途中で外務省が入ってきてロシアと共同提案となれば、それによって登録が遅れたり、登録が困難になってしまう可能性もあるため、地元としてはその動きは歓迎しないだろうな。
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