立花隆「『田中真紀子』研究」

「田中真紀子」研究「田中真紀子」研究
立花 隆

文藝春秋 2002-08
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 最初に断っておきたいのは、わたし自身、田中真紀子という政治家に興味があるわけではないということだ。彼女が外務大臣時代に見せた無能力ぶりと、「人間には、敵か、家族か、使用人の三種類しかいない」と言い放つ彼女の人間観を見ても、彼女は政治家として論評に値しない人物とわたしは見ている。
 わたしが興味があるのは、彼女の父・田中角栄だ。大政治家・田中角栄の能力の高さと、求心力の源泉について興味があり、時間を見つけては調べている。そういうわけで本書で田中角栄氏について触れられている部分をつまみ読みした。下記の田中角栄氏の発言に興味を覚えた*1

学者はだめだ。世間知らずだ。連中の話など聞いても机上の空論だ。一文の得にもならない。…それよりも役人だ。若手のできる奴らを集めろ。各省からもれなく集めろ。方針はオレが示す。…オレたちが方向さえ明確に示せば、彼らは対応策を具体的に用意する。(95p)

わが国の政治は、霞ヶ関の官僚集団の協力なしに、1メートルも歩くことが不可能である。日本の官僚は外国の役人とは比較にならないほど有能である。仕事熱心で、訓練の行き届いた専門家、テクノクラートのグループである。…「彼らは生きたコンピューターだ」(96p)

 田中角栄は日本国家の実情を良く把握している。それが分かるコメントだ。ただ学者批判の部分は、確かにそういう側面もあるかもしれないが、それよりもこの発言は、角栄氏の学歴コンプレックスから来る側面の方が強いのかもしれない。津本陽は「異形の将軍―田中角栄の生涯」において、東大などの学閥などに対し意識的に避け、自身の学歴を気にする角栄の姿を紹介している。
 ただ角栄の官僚への視点は、今でもこの通りだと思う。政治主導という言葉が昔から叫ばれているが、世襲議員が多くなり、下積み生活も少なく官僚システムのイロハも分からない多くの政治家が、政治主導を担えるのだろうか? どれだけ国家運営のイニシアティブを取れるのだろうか? ほぼ絶望的だろう。テレビなどのメディア上で威勢の言いことをカッコ良く言ったり、理路整然と「べき」論を言えるということと、実際の実務の現場で有能かどうかは必ずしも関係はない。むしろ威勢の良いことを言う目立ちたがり屋政治家は実務能力が低いことも多い。
 政治主導を本気でやりたいのならば、メディアで目立つことよりもまず、優秀な官僚と良く議論をして方針を作り、その方針に沿って組織一丸となって仕事をすることではないか。政治家はアメとムチで官僚にハッパをかけ、官僚をやる気にさせることが重要である。そして時には厳しく官僚に責任を取らせることも必要だ。官僚をやる気にさせる能力や、責任を取らせる覚悟のない政治家が少ないのではないかと思う今日この頃。
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*1:と言ってもこの発言は本書オリジナルの記述ではなく、角栄の秘書官だった早坂茂三氏の著書からの引用である。