民主党よ、驕るなかれ

 安倍首相の自滅に際しての、民主党のおごった雰囲気が気になる。その象徴的な存在が鳩山由紀夫幹事長だ。安倍首相の辞任表明を受けた直後の民主党ミーティングで、挨拶にたった鳩山氏は、同僚のチャチャに苦笑いを浮かべ、せせら笑った。本当に数秒の出来事だった。しかし、勝者の余裕がつい出てしまった瞬間を、わたしは見逃さない。
 民主党よ、肝に銘じてほしい。先の参議院選挙だって、積極的に民主党が支持されたわけではなく、安倍自民党がヒド過ぎたから消極的に民主党に票が流れただけである。多くの国民は積極的に民主党を支持しているわけではない。だいたい55年体制の本丸中の本丸である労働組合が支持基盤の民主党が、今の時代に国民から広く支持を集めるわけはないではないか。民主党所属の国会議員、そして職員の方々は、この冷厳な事実を肝に銘じて気を引き締めて欲しい。
 鳩山幹事長的にせせら笑っていないで、あま〜い政策を選挙用に振りまいていないで、まず実現可能な政策をしっかり固め党内をまとめてほしい。自民党出身の小沢一郎氏から社会党出身の横路孝弘氏まで、昔の言い方でいうと右から左までいる人種のルツボの党内を早くビシッとまとめてほしい。特に国家の基本に関わる国防や外交について、統一見解を早急にまとめ一般に公表すべきだ。国家の基本理念を描けない政党は、政権与党にはふさわしくない。「小沢一郎氏が連合の幹部と会談」なんてニュースには、未だに違和感を覚える。
 元外交官で作家の佐藤優氏は「 (外交の鉄則として)勝者は決して白い歯を見せてはならない」(佐藤優「地球を斬る」78p))と述べている。これは政治の世界にこそ当てはまる言葉だ。

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 そのような意味では、鳩山由紀夫幹事長より小沢一郎党首の方がしっかりとしていると感じる。小沢党首は、参院選の大勝の夜に休養を理由に姿を見せなかった。大勝の興奮の中で口を滑らさないように警戒して、マスコミの前に出てこなかったというのが真相らしい。小沢氏の、勝者は白い歯を見せない、勝って兜の緒を締めよ的態度に、わたしは小沢氏の評価を上げた。小沢氏という戦略家がリーダーとして君臨している今こそ、民主党はあいまい路線を脱して、明確で筋の通った政党に生まれ変わって欲しい。
 それにしても安倍晋三氏失脚には世の移ろいの早さを感じる。1年前の安倍氏の栄光は今は見る影もない。今の安倍氏は精神的にも肉体的にもボロボロの状態なのだろう。そんな安倍氏を見ていると、わたしは平家物語の冒頭の文を思い出す。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響き有り。沙羅双樹の花の色、盛者必衰(じゃうしゃひっすい)の理を顕す。奢れる人も久しからず、只春の夜の夢の如し。猛き者も終には亡ぬ、偏(ひとへ)に風の前の塵に同じ。

 「奢れる人も久しからず、只春の夜の夢の如し」という文などは、衆議院の圧倒的な多数を武器に強行採決を繰り返し「国民投票法」や「イラク復興支援特別措置法改正」を通した、通常国会の春の風景となんと重なることか。それはちょうど、春の夜のはかない夢のようなものだった。
 平家物語の冒頭部分のキーワードはやはり「諸行無常」という言葉であろう。諸行無常とは、この世の現実存在はすべて、姿も本質も常に流動変化するものであり、一瞬といえども存在は同一性を保持することができないことを指す。仏教の3つの基本思想の一つだ。噛み砕いていえば、移ろいゆくものが人であり、それが人間存在の悲しさにつながっており、同時に愛おしさにもつながっている。そんなアンビバレント(二律背反)な存在が人間である。わたしはそう理解している。

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