松田素二「都市を飼い慣らす―アフリカの都市人類学」

都市を飼い慣らす―アフリカの都市人類学
都市を飼い慣らす―アフリカの都市人類学松田 素二

河出書房新社 1996-02
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 アフリカの主要都市ナイロビをフィールドワークした人類学者の都市社会学史。

 ナイロビのスラム街に潜り込み、何ヶ月も生活し、住民と仲良くなる中で見えきたアフリカの出稼ぎ民の実態、背景、都市と地方の変動史。未開さを愛でるこれまでの人類学に違和感を感じ、都市という巨大な生活空間をまるごと対象しようと決意した稀代の人類学者によるルポルタージュとしても読める。

 スラム街生活の中で気づいた疑問から出発し、聞き取りからその背景を解き明かしていく展開力は見事というしかない。近所の友人らの出稼ぎの様態から、アフリカ近代史まで解釈を広げていくのである。その過程で、アフリカ=部族社会というステレオタイプの枠組みを批判し、もっと狭い身内ネットワークこそ有効であると主張する。

 調査対象者数は決して多くない。「都市という巨大な生活空間をまるごと対象」にしながら、大規模なアンケート調査もない。スラム街の近隣の住民を対象とした、限られた人々に対する聞き取りをベースとして、「出稼ぎ文化」「漂泊、旅」「インフォーマル」「身内ネットワーク」などをキーワードに、アフリカ社会の変動をダイナミックに描いていく。

 絶対的貧困、圧倒的な絶望世界を前にしても、アフリカの出稼ぎの民はタフだ。絶望することなく、したたかに適応して生活世界を構築していく。そのたくましさ、楽天的な性格は、同じ現代を生きる日本人とはまるで異なるメンタリティだ。
 このようなアフリカの民について、著者・松田は「抵抗」「創造」と表現する。そして「都市を飼い慣らす」と表現する。絶望世界に対峙するアフリカの民の適応を「抵抗」「創造」と言うことには違和感は感じなかったが、「都市を飼い慣らす」とまでは言えるのかな?と感じた。「都市を飼い慣らす」とは強い能動表現だ。アフリカの民が都市をコントロールしているようなイメージになる。しかしアフリカの民の実態は、そこまで能動的ではなく、圧倒的な絶望世界に対してなんとか抗っているというのが実態ではないか。本書のタイトルも「都市を飼い慣らす」だが、だいぶ勇み足ではないかと感じた。

 データからイメージを膨らませていく能力の高さは、まさに社会系の研究者になるべくして生まれてきたような人物だ。わたしも大学院時代同じようなアプローチに憧れ実践しようとしたことがあるが、展開力のなさが露呈し結局断念した。自分自身の社会学的想像力のなさを痛感しているからこそ、著者・松田の研究者としての能力の高さをリアリティを持って理解することができるのかもしれない。

 文章もうまい。読み手を離さない構成、論理展開、持論を展開するときの、違和感を与えない巧みな言い回し。人類学者以外の素人も興味をもって読める内容に仕上がっている。お勧めの本だ。

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(私の本書の評価★★★★☆)