竹中平蔵「竹中式マトリクス勉強法」

竹中式マトリクス勉強法
竹中式マトリクス勉強法竹中 平蔵

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 竹中平蔵氏の言説(たとえば「グローバル化の時代→日本も対応する必要、バスに乗り遅れるな!→とにかく規制緩和」みたいな経済しか見ていない単純な論理)には疑問もあるものの、本書は竹中氏の実践してきた勉強法ということで、楽しくメモを取りながら読ませてもらった。

 本書のツボは次の点であろう。つまり勉強に向かう視点として、「ビジネスや政治の場で闘うための勉強/人間力を鍛えるための勉強」と分け、またそれを「天井がある勉強/天井のない勉強」と分けてそれらをマトリクス表示し、私たちが取り組むべき勉強の中身を一目瞭然にするのである。このマトリクス表があれば今われわれが何をすべきなのかすぐ分かり、長期戦の勉強にありがちな、途中で自分が何をやっているのか分からなくなってモチベーションが下がったり、その時関心のあることに浮気をしたりすることも少なくなるだろう。まずこのマトリクス法に関心した。

 次に感心したのは、「目標から締め切りを逆算する」手法である。これはすべての勉強に言えることなのだが、「分かっちゃいるけど・・・」とやらで、なかなか実践できない。しかし竹中氏は小泉元首相と取り組んだ郵政民営化もこの逆算方式で、民営化期限からそれまでに進めることを細かくスケジューリングしていき、実現させてしまった。処女作の研究書も一日3枚の執筆を続け100日で計300枚の書籍を完成させてしまった。つまりすべての勉強分野について短期的なゴールを設定していって、それに向かって細切れにスケジューリングしていき、逆算的に今日やるべきことを埋めていく手法なのだ。野口悠紀雄著の「超整理法」もスケジューリングを重視した手法で、手帳まで開発していたことを読んでいて思い出した。

 要は、人生その日暮らしではだめだ、ということだ。「明日の自分の心境」「来年の自分の心境」なんて分からないんだから、今思いつくことを日々勉強するという姿勢では、一貫性がなく、分散的で、効率も悪く、何もモノにならないということなのだろう。
 それはその通りかもしれない。人生は短いのだから。あれもこれもできる、時間は有限にあるなんて幻想だ。つくづく最近の自分に反省。

 ただ、ひとつだけ。
 野口悠紀雄氏にも感じることだが、経済学者の言説は分かりやすくて興味引かれるんだけど、どうも事象をばっさり切り過ぎていて違和感を感じることもある。たとえば本書のマトリクス表示は、何を勉強したいのかをまず明らかにし、それを整理して実践に結び付けていく手法なのだが、「何を勉強したいのか」というのはつまり「人生の目標は何か」という問いに等しい。そうであるとすれば、一体、これを明確に分かっている人ってどれくらいいるのか?と思ってしまう。みなそれが分からずに悩み、苦しんでいるんじゃないの? 「これが目標」と決めても時間が経つにつれて迷いが出てきて、自信が持てなくなり、振り出しに戻ったりしてしまう人って結構多いんじゃないの? 
 経済学は単純化するのが得意な学問だと思う。社会科学の中では、数字に還元して議論するケースがもっとも多い学問分野の一つだろう。だからこそ、論理展開も明快で、分かりやすい。理論もしっかりしていて、当然、議論にも強い。
 しかしその分、人生や社会の複雑性を捉えきれていない、というか始めから捉えようと思っていないと感じる。「だから経済学は悪い」と言うつもりはまったくないが、少なくとも、われわれ読者のリテラシーとして、経済学はそういう特徴を持った学問なのだと認識した上で、経済学者の議論を聞くことが重要となるだろう。自分の中で、彼ら経済学者の言説を相対化し消化することが必要になろう。

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(私の本書の評価★★★★☆)
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