山崎豊子「華麗なる一族〈上・中・下巻〉」

華麗なる一族〈上〉 (新潮文庫)
華麗なる一族〈上〉 (新潮文庫)山崎 豊子

おすすめ平均
stars名作です!
starsドラマを見た人も原作の重厚な文章を味わって欲しい
stars読み始めたら止まらない
stars政官財、家族、男女が縦横に絡み合う大河ドラマ
stars「悪」の魅力。でも、それが単純な「悪」とはいえないのが山崎作品の魅力。

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 個人的には、一族の力を増大させ企業グループを発展させるための、「閨閥づくり」という手法が本書を読んで印象に残った。閨閥(けいばつ)という言葉はわたしは初めて聞く言葉だったのが、妻の親類を中心とする勢力のことである。本書では、長女を大蔵官僚と結婚させ、次女を政治家の親類を結婚させようとする万俵家(まんぴょうけ)の事例が描かれているが、読んでいると、確かに閨閥づくり」は企業の発展させていくために重要な手法と思えてくる。もっとも万俵家は閨閥づくりだけではなく、長男・次男をも政略結婚させているので、子息子女を持ち駒に一族を挙げて人脈を張り巡らしているといえよう。
 一族の子息子女を持ち駒に人脈を広げていく手法は、実際の財界や政治家の世界では当然のこととして行われているのかもしれない。政略のための、お見合い結婚なんて信じられないと個人的には思うが、「一族のため」という錦の旗のもとで周囲が突っ走り当事者はそれに従うしかないのかもしれない。そういう政略結婚をしているから、夫婦あいだに本来あるべき信頼関係や暖かさがなく、夫は浮気したり妾を囲ったり仮面夫婦だったりするのかもしれない(実例を知っているわけではないが)。そう考えると家柄が良いと言われている人たちも、カネもあり権力もあるかもしれないが、心の中は孤独で、可愛そうな人たちなのかもしれない。そのような世界がもしあるなら、気が弱く、生活の面では超保守的なわたしには絶対無理な世界だ。
 万俵コンツェルン総帥にして阪神銀行頭取の万俵大介は、企業グループの発展のために、実の息子(鉄平)の会社をつぶし息子のプライドをひどく傷つけてしまう。そして鉄平は自殺してしまう。死後の血液鑑定から鉄平の出生にかかる疑惑は払拭され、鉄平がまぎれもない自分の子どもであると知り大介は「疑惑のために息子にひどい仕打ちをしてしまった」と愕然とする。息子を捨石にしてさえ守ろうとした阪神銀行も、政治家に裏切られ、娘婿の大蔵官僚にも裏切られ、結局3年後に合併されてしまう。万俵大介にとっては、人生の終盤になって、自分のやってきたことがすべて否定されるような悲惨な結末である。
 本書では、銀行の支店をめぐる預金争奪戦の模様が描かれている。万国博覧会の関連事業として道路用地買収が持ち上がり、大阪府が50億円の買収資金を用意し、それを土地所有者の農家にばら撒くというのである(上巻:381p)。そのお金を預金してもらうため、阪神銀行をはじめとする銀行が入り乱れ、預金争奪戦を繰り返す。行員はもとより支店長も缶詰セットの土産を配って回り、農家の千円の預金の出し入れも行員がスクーターを飛ばして届け、農家の母親が病院にかかったときも車で送り迎えする。田植えの時期になれば、営業担当者も女子行員も泥と汗まみれになりながら田植えを手伝う。そんなことまでして預金を獲得したいのだ。
 銀行員なんて、世にいうエリート職であろう。競争倍率も未だに高い。希望する若者には、経済活動の拠点として銀行の役割を果たしたいと燃えている人も多いだろう。しかし実際がこんな状況なら、踏んだりけったりではないか。預金獲得のために威張りちらす農家の言いなりになり、精神的にも肉体的にもボロボロになる。阪神銀行の支店長はついに心臓発作で死んでしまう。最近の実際の銀行でも、不良債権を抱えたくないので少しでも不安のある企業への貸し出しは渋る傾向にあるという。経済活動の拠点として企業を育て高めあっていくのではなく、ひたすら内向きに「自分たちさえだけ良ければ」の発想になっていないのだろうか。熾烈な競争の中での企業活動なので正論ばかり言ってられないという側面はあるかもしれないが、それにしてもどうにかならないか…と思ってしまう。

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(私の本書の評価★★★★☆)
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