石城謙吉「イワナの謎を追う」

イワナの謎を追う (岩波新書 黄版 272)
イワナの謎を追う (岩波新書 黄版 272)石城 謙吉

岩波書店 1984-07
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おすすめ平均 star
starすぐれたフィールド・ノートです
star筑波大附属駒場中学の2004年度冬期休暇の課題図書
starイワナを釣ったことがない人にもお薦め

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 道東の町で釣り上げた一匹のイワナの謎…白い斑点と赤い斑点という違った個体がある、という謎を追い続け、その秘密を解明した名著。ストーリー展開がすばらしく読ませるのはもとより、文筆家というべき石城先生の巧みな表現力・文章力がいかんなく発揮されている内容に仕上がっている。魚類生態学の本だが、わたしのような専門外の人間でも楽しく読めてしまうほどの分かりやすさ。
 本書の成果として整理すると、
白い斑点=アメマス(エゾイワナ)、赤い斑点=オショロコマ(カラフトイワナ)という分類ができること
②上流域にオショロコマ、下流域にアメマスと棲み分けしていることを実証的に説明したこと
③オショロコマとアメマスの勢力争いは新興勢力のアメマスに分がありそうなこと
 この3点に説明できるであろう。
 たとえば③の説明では、

オショロコマは現在、北海道ではほぼ完全に降海性を失っており、各河川の上流部に陸封されている。これに対するアメマスは、オショロコマよりも下流側に住み、しかも全道的に降海性を保っている。…上流域に陸封されていて降海性のないオショロコマには、勢力拡大のチャンスはまずないと思われるのである。(203p)

 と述べる。これに基づき、

知床半島はオショロコマにとって、まさに道内最後の牙城であるともいえそうである。…知床半島は、赤い斑点と白い斑点のイワナの道内最後の決戦場、いわば壇ノ浦になる可能性をはらんでいるといえそうである。(208p)

 と巧みな表現でまとめる。この表現力が石城謙吉氏の真骨頂だ。
 また道東の根釧原野や標津駅についての説明も的確で、古典文学を読んでいるような錯覚を覚える。

それにしても、(根釧原野は)夏というのになんと寒ざむとした世界だろう。農家を囲む原野の茂みにはノリウツギの白い花やホザキシモツケの淡紅色の花の彩りがあるとはいえ、それらはみな、冷たい霧雨に濡れてかじかんでいるかのようである。(26p)

小さな駅(標津駅)を出ると前方にはこれも寒ざむとした青黒い海が広がり、その向こうに、今は異国の領土である国後島の丘が見える。(26p)

「青黒い海」という表現は、リアリティあるな。

小さな町を通り抜けて原野にはいりこむと、キタヨシの群落やハンノキの茂みがあたり一帯に広がっていて、夏のほうがはるかに淋しいとよく人にいわれる、独特の景色がここにも展開する。(27p)

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(私の本書の評価★★★★★)

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