柴田昌治,金田秀治「トヨタ式最強の経営―なぜトヨタは変わり続けるのか」

トヨタ式最強の経営―なぜトヨタは変わり続けるのか (日経ビジネス人文庫)
トヨタ式最強の経営―なぜトヨタは変わり続けるのか (日経ビジネス人文庫)柴田 昌治 金田 秀治

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starsトヨタを題材とした企業風土のケーススタディ

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 トヨタ自動車の経営絶好調の秘密を探りたい程度の気持ちで読んだら、予想外に(著者には失礼!わたしの期待値が低かっただけのこと)なかなか面白く、斜線を引きながら読んでしまった。何が面白かったかというと、ここで指摘されているトヨタ自動車の改革ポイントが、自分の職場の改革ポイントと重なる部分が非常に多かったからである。自分の職場に応用するにはどうしたらいいか、などと思いを巡らせながら丁寧に読んだ。本書で触れられている、問題顕在化の仕組み、現場主義、カイゼンかんばん方式、ローテンション方式のアイデアは、特に面白いと思った。
 ただ本書全般としてトヨタ式経営を絶賛しているが、理想的な職場、理想的な会社と持ち上げ過ぎの感があり、すべてを鵜呑みにしてはいけないな、と思った。社会学の訓練を受けた者は、物事にはいつも両面があるという視点を持っている。トヨタ自動車で言えば、本書だけ読めば「どれだけ立派な会社だろう」と憧れたりもするが、近年の急速な規模拡大によって、特に海外において人材育成が後回しになっていると指摘されている。わたしの知り合いの関係者も、「人材の面から言って、トヨタの繁栄は長くは続かない」と言っていた。
 本書においても、企業運営の土台となる人材育成についての記述はいくつかあるが、いまいちピンとこなかった。横のネットワーク作りがうまくいっていると指摘しているが、自主研などのインフォーマルな組織を作ればすぐに機能するとは考えにくく*1、このあたりの説明が足りず、リアリティが沸かないので、やはり腑に落ちない。トヨタ自動車を神聖化せず相対化しながら、良いところは良いモノとして学び取る姿勢が必要である。


1 企業改革を動かしていくためには

戦略、事業計画、制度、業務プロセスなど、いわゆる「人」抜きのハードに関する部分はたしかに変わってきている・・・戦略の方向性だけは絵として描かれていても、その具体的な中身が、まだ自分で『考え』ようとしていない人には見えてこない。なぜなら戦略の中身は現場で実際に仕事をしている人が『考える』ことでしか具体化するのは難しいからだ・・・できるだけ多くの社員が持っている能力、つまり『考える力』とその可能性が引き出されることが必要だ(28-29p)

本当に変わろう、と思えば方針だけでは不十分で、その方針を具体的な中身を伴って展開していくだけの知恵が必要である(209p)

 改革の中身だけではなく、方針すら出さないリーダーが多すぎる。一般論的な、総花的な方針などは方針でもなんでもない。選択と集中の時代、捨てるもの、残すもの、新しく取り組むものを明確にし、組織の進む道をはっきりさせなければ「方針」と呼ぶことはできない。多くの組織は、ここで述べられている対策以前のところで足踏みしている状態だ。

人間は『その気になる』ような環境に置かれたら本気になる。しかし何の刺激も与えられないでいると努力しなくなってしまう。…たとえば、競争原理が機能しているような環境(が動機づけになる)(33p)

 しかし本気になっても、もともと個々人が持っている能力の差は歴然としてあるだろうな。また競争原理が働きにくい職種の仕事をしている組織はどうやって「その気」にさせればいいのだろうか? たとえば総務畑、維持管理系など。もっといえば公務員の仕事なんて競争原理が働きにくい典型だろうな。

・・・自分が孤立するのがわかっているとき、正しいか正しくないかで判断するよりも損か得かで判断するほうを優先しがちなのが人間である・・・そういう意味で言うと人間というのは、・・・基本的には易きに流れてしまいやすい(31p)

 誰しも好んで孤立はしたくない。集団の中での孤独は、想像を絶する苦痛をともなう。その中で自ら信じる正しい道を歩めるかどうかは、信念をどれだけ大切にしている人間なのか、孤独を恐れない度胸を持っているかにかかっている。


2 インフォーマル活動の必要性

(変革を起こすためには)強いエネルギーを持つ人同士が立場を超えてインフォーマルに連携し合い、協力し合うことがどうしても必要だ(8p)

ピラミッド型組織のなかから各部の代表を人選してつくられたプロジェクトチームでは、常識はずれの改善活動などに取り組むことはとても期待できない(81p)

 組織で働いていると、インフォーマルな連携の必要性を痛感する。わたしの職場では、何かをやるといえば「ピラミッド型組織のなかから各部の代表を人選してつくられたプロジェクトチーム」が作られ、結局、何も進まないことが多い。そうではない、インフォーマルな空間をどう作ればいいのか、実践論として日々考えている。
 職場を越えた広域連携はすでにはじめている。わたしの専門は森林管理なので、森林管理に意欲的に取り組む、全道各地の人たちとインフォーマルにつながって、定期的に会合を開き、議論をし、ペーパーを作っている。恥ずかしながら、林業界はこういう動きが本当に少ない。昔からやっているトヨタ自動車には笑われそうだが、まだ小さな動きではあるが、遅ればせながらも取り組みを活発化させたいと思っている。

プロジェクトチームを上手に進めるコツ(267p)
①「ありたい姿」を明確にする
②中間の具体的な目標をつくる
③軸としての判断基準
④中核となる人材を発掘し、育てること

3 企業改革を進めるための人材配置

…(企業の)変化のスタートには必ず具体的な目標を提示する言葉(コンセプト)を提起できる人材を必要とする」(55p)

「言い出し屋がつくった常識はずれだがなんとかなりそうな課題(コンセプト)からイメージを膨らませて、さらに自分なりにより具体的な現場で展開できるイメージを描き出す(人材が必要だ)(61p)

(改革に際して)とにかく根気よく説明し納得してもらう以外に方法がない…最後に根負けして、相手が「わかった。協力するよ」と言うまで繰り返し説得する。…現場の人は気持ちが共感したときに動く。64p

 最後に印象に残った言葉をひとつ。

人間の脳は困らない限り知恵は出ないよ(大野耐一氏、84p)

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*1:そもそも「自主研」と言っているが、もともと会社の肝いりで作った研究会だから、個人の自発的な研究会ではない。言葉の定義に厳密に従うなら、トヨタの自主研はインフォーマル組織とは言えないかもしれない。