アイデア閃きに関する脳生理学的考察

 森の現場を歩いているとき、車で現場まで移動しているとき、ハッと閃く瞬間がある。ポアンカレの言葉を使えば、「突然天啓がくだった如くに考えがひらけて来る」という状態である。仕事のアイデアはもちろんのこと、体験したあのケースはアカデミックに位置づけるとこうなるとか、あの計画は別の角度からみればこなるとか、さまざまなことを閃く。ときどき、忘れていた仕事のことなどもフイに思い出したりする。こういった閃きや思い出しは、事務所で机に向っているときにはほとんどないことだ。
 脳生理学の立場からすると、身体を動かせば脳の働きが活発になるという。経済学者の野口悠紀雄氏はアイデアを出したいときは、意識的に散歩をするのだそうだ(「超」整理法,1993年:181p)。「頭にぎゅうぎゅうに詰め込んで、揺さぶると、何かが出てくる」というイメージで、ここでの揺さぶりの過程で散歩するのだという。もちろん事前に問題意識や知識を詰め込んでおくことが重要だ。カラの頭では、いくらゆさぶっても何も出てこない。昔から大学町にあるような「哲学者の道」などは、アイデアを出す際の散歩の重要性を物語っている証拠であろう。
 身体を動かせば脳の働きが活発になるのは、わたしのイメージでいえば次のようになる。事務所で書類を捌いたり、文章を書いたりしていると脳にも疲れが溜まる。そんなとき森の現場にいくと、デスクワークのプレッシャーから開放された安心感と、森の現場の開放感(今流行の言葉でいえば「森林セラピー」かな)が重なり、脳にとっても絶妙な気分転換になり、そのリラックスした状態が脳生理学的にみれば「脳の働きが活発にな」ったということであり、そういうときに閃きが生じる。もう少し原理的にいうと、脳に負荷がズンズンとかかった状態からスッと開放された瞬間、その緊張の一瞬の緩みのときが脳の機能がもっとも高くなる。わたしは脳生理学についてはまったくのシロートだが、経験上、このような原理があるように思えてならない。