佐藤優「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」再読

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
4104752010佐藤 優

新潮社 2005-03-26
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star上四半期最大の収穫の1つ
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star国家の罠」を暴露した書物

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 本書については2年ほど前に書評を書いているが(国家の罠)、今回久しぶりに本書を再読し、新しい刺激を受けたのでそのことについて触れたい。何回読んでも新たな刺激が埋め込まれている点で、本書はすばらしい名著だと思う。
 改めて感じることは、佐藤氏の精神力の強靭さだ。512日も勾留され密室の中で取り調べを受け続けても、姿勢を変えることなく筋を通そうとする。その姿勢は、自己保身ではなく、国家のため他者のためという観点で論理構成されている。いわゆる「鈴木宗男事件」では背任と偽計業務妨害の容疑により逮捕された関係者が次々と(佐藤氏の弁によれば検察が作り上げたデッチ上げに沿って)自白するなかで、佐藤氏と鈴木宗男氏だけ毅然と立ち向かった。独房での生活や密室での取調べが続くと、気持ちがだんだんと弱くなり、自分を見失ってしまうケースが大半だという。その中で最後まで自分を見失わずに筋を通した佐藤氏の力の源泉は、本書でも触れられているように、
①情報専門家のプロとして、自分の身の回りで起こっていることを冷静に分析することができたこと
ソ連崩壊の過程で仲間を裏切った者がロクな人生を歩んでいないのを目の当たりにしたこと
③友人を大切にする佐藤氏の価値観
キリスト教信者として心の拠り所があったこと
 この4点くらいにあったのだろう。私が佐藤氏のような立場におかれたら、佐藤氏のように頑張れたかどうかまったく自信がない。それはギリギリに追い詰められたところで拠り所になるもの(佐藤氏でいえばキリスト教)が、今のわたしにはないことが最大のウィークポイントだ。
印象に残った文章
イリインロシア共産党第二書記の言葉

僕たちロシア人は原理原則を譲らない外国人を尊敬するんだ。ただし日本政府の発言要領を繰り返すだけではダメだ。自分の頭で徹底的に考えて、ロシア人の心に訴えることばを見つけるんだ。そうすれば君の外交官としての人脈は飛躍的に広がる。(17p)

 わたしが実務家として人脈が飛躍的に広がっていないのは、自分の頭で徹底的に考えて、地域の人たちや国民の心に訴えることばを見つけていないからなのだろう。

東郷文彦氏(元外交官、外務事務次官、駐米大使を歴任)の言葉

過去の経験則から、私は利害が激しく対立するときに相手とソフトに話ができる人物は手強いとの印象をもっている。(44p)

 これはそうかもしれない。怒ってちゃぶ台ひっくり返す人は、意外と交渉に弱いということを私も経験している。

情報専門家の間では、「秘密情報の98%は、実は公開情報の中に埋もれている」と言われるが、それを掴む手がかりになるのは新聞を精読し、切り抜き、整理することからはじまる。情報はデータベースに入力していてもあまり意味がなく、記憶にきちんと定着させなくてはならない。この基本を怠っていくら情報を聞き込んだり、地方調査を進めても、上滑りした情報を得ることしかできず、実務の役に立たない。(189p)

 これは名言だと思う。これは多くのビジネスマンや行政官に必要な認識だろう。以下、記憶に残った記述を列挙する。

このような状況で、日本人の排外主義的ナショナリズムが急速に強まった。私が見るところ、ナショナリズムには二つの特徴がある。第一は、「より過激な主張が正しい」という特徴で、もう一つは「自国・自国民が他国・他民族から受けた痛みはいつまでも覚えているが、他国・他国民に対して与えた痛みは忘れてしまう」という非対称的な認識構造である。ナショナリズムが行きすぎると国益を毀損することになる(119p)

…ロシアの酒飲み政治家は酒を飲まない者を信用しない。酒を飲んだときと素面のときの発言や態度の変化をよく観察して人物を見極めるのである。(186p)

金銭に執着のない者は概して自己顕示欲を抑えることができる。(221p)

鈴木宗男氏は)要するに気配りをよくし、人の先回りをしていろいろ行動する。そして、鈴木さんなしに物事が動かなくなっちゃうんだな。それを周囲で嫉妬する人がでてくる。しかし、鈴木さんは自分自身に嫉妬心が稀薄なので、他人の妬み、やっかみがわからない。それでも鈴木さんは自分が得意な分野については、全て自分で管理しようとする。それが相手のためとも思うけど、相手は感謝するよりも嫉妬する。その蓄積があるタイミングで爆発するんだ。(273p)


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