鈴木宗男,佐藤優「北方領土『特命交渉』」

北方領土「特命交渉」
北方領土「特命交渉」鈴木 宗男 佐藤 優

おすすめ平均
stars「自壊する帝国」に続き再び唖然。
stars「本当の悪」とは何かを皆でよーく考えよう!!
stars鈴木宗男のグローバルな外交感覚に驚き

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 毒を盛られた疑いで重体となっていた元ロシア連邦保安庁(FSB)中佐のアレクサンドル・リトビネンコ氏(43)が11月23日夜、ロンドン市内の病院で死亡した。リトビネンコ氏はプーチン体制の批判者で6年前に英国に亡命した経緯から、ロシア治安当局関係者の「毒殺」関与を疑う見方も出ている。真偽のほどはこれからの捜査に委ねられているが、プーチン政権のチェチェン弾圧を批判してきたアンナ・ポリトコフスカヤ記者殺害された事件といい、プーチン政権下のロシアには不穏な動きが頻発している。
 そんなニュースを聞きながら、本書「北方領土『特命交渉』」を一気に読んだ。本書は衆議院議員鈴木宗男氏,元外務省官僚の佐藤優氏の対談形式となっており、北方領土問題を軸としたロシアとの交渉の内幕、外務省内での幹部とのつばぜり合いなど、外交の現場における人間ドラマが赤裸々に語られている。読みやすかった。鈴木氏の対ロ外交ビジョンの明確さ、佐藤氏の相変わらずの博学ぶりには感心させられた。が、冒頭のニュースとの絡みで、疑問に思った点もあった。
 それは鈴木氏、佐藤氏のロシア国家観についてだ。ソ連崩壊後のロシアは共産主義体制から脱却し、民主主義という日本と共通の価値観を共有する国になった、だから交渉相手として信頼できる国なのだ、という認識がここでは示されている。しかし本当にそうなのだろうか?
 確かに表面上は、今のロシアは資本主義国家、民主主義国家である。しかし冒頭のリトビネンコ氏暗殺やポリトコフスカヤ記者殺害のニュースを聞いていると、本当にロシアは民主主義という価値観をもっている国家なのか、信頼できる国家なのか疑問におもう。プーチン政権は、自分の意のままにならない企業を追い出したり、批判的なメディアを強権的に押さえつける、という強権的な手法が欧米各国から批判されている。これらの経緯を踏まえると、ロシアは共産主義国家という表看板は外したかもしれないが、独裁体制という裏看板は昔のままじゃないか、と思ってしまうのだが…。
 とここまで書いて思ったが、今回のリトビネンコ氏暗殺については違う見方もできる。反ロシア勢力が暗殺したという見方だ。たとえロシア国家にとってリトビネンコ氏が煙たい存在であったとしても、今暗殺することは「犯人=ロシア国家」と結びつけ易いため、ロシアの国際的評価を下げることになってしまう。もしロシアがやったとしたら、あまりにもアホな振舞いだ*1。反ロシア勢力、たとえばチェチェン独立派やイスラム原理主義一派などが仕掛けた陰謀なのかもしれない。この辺り、ロシア専門家の佐藤優氏に解説してほしいものだ。
(私の本書の評価★★★☆☆)
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*1:ロシアの諜報機関でも旧KGBではなく旧CRU(ソ連参謀本部諜報総局)グループは工作が乱暴というので(佐藤優「自壊する帝国」47p)、彼らのグループがやった可能性はある。