佐藤優「国家の自縛」

国家の自縛
国家の自縛佐藤 優

おすすめ平均
stars国家主義者」佐藤優
stars圧倒的な外交経験値と知力に感嘆する
stars永田町の皆様へ
stars強靱な知性

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
 前作の名著「国家の罠」もそうだったが、本書は、わたしのような外交シロートにとって、とてもためになる入門書である。本書を読めば、普段何気なく聞いている国際ニュースや外交トピックの背後に、さまざまな外交論理が埋め尽くされ、張り巡らされていることが分かる。対北朝鮮外交や、対中国・韓国外交で、感情的に噴き上がってしまいがちな日本人の外交感覚を磨く意味でも、必読の書ともいえよう。
 本書に出てくる、人間の認識の非対称性の議論(28p)や、真のエリートとは論(28p)、マキャベリを引用しての現代のリーダー論(40-41p)、高橋哲哉の「靖国問題」批判(73p)など洞察力に富んだ鋭い指摘や、佐藤氏の博覧強記ぶりには、ただただ唸らされる。きっと何度読んでも、そのたびに考えさせられ、新鮮さを与えてくれるたぐいの名著であろう。
外交における現実主義・合理主義と文明の衝突
 このように佐藤氏の外交ビジョンには学ぶべきことがおおいのだが、1点だけ気になったのは、佐藤氏のように、外交における現実主義・合理主義を突き詰めていけば、文明の衝突になってしまうのではないか、という点である。たとえば日本の中東政策について佐藤氏は次のように述べる。
「イランとかレバノンとか、価値観を共有できないような危険国家とイスラエルを同じように天秤にかけて考えたら大きな間違いです。ちなみに友だちを見れば性格わかるんですよ。中国はどこの油田から今、一番買おうとしています?・・・イランじゃないですか、それは肌合いが合うからです。北朝鮮が軍事協力したのはどこですか。イランじゃないですか。日本の対中東政策というのは、私はちゃんとイスラエルの側に腰を入れて行うべきだと思うんです」(114-115p)
 つまり日本の中東政策について、これまでのようにイスラエルと距離をとりイランやレバノンと付き合うのではなく、イスラエルと仲良くする道を選ぶべきではないか、と佐藤氏は主張している。佐藤氏は別の箇所で、「外交とは『対話、利権、圧力』を巧みに使い分けて行わなくてはならない世界」(145p)と述べているが、確かに日本の国益を追求する場合に、現実的に合理的にいってイスラエルの側に日本は立ち、「対話、利権、圧力」を駆使して日本のプレゼンスを中東で発揮していく方が良いのかもしれない(正確に議論するのではれば短期・中期・長期と分けて議論しなければならない)。
 しかし一方であまりにこれを突き詰めて追求していくと、価値観を共有できない国、利用価値が低い国はないがしろにし、時には敵対してもかまわないという流れになってしまうのではないか。もっとはっきり言えば、イスラム国家や社会主義国は重視しなくて良い、敵対関係になってもいい、つまりは文明の衝突を引き起こしてはしまわないか、と危惧するのである
国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
4104752010佐藤 優

新潮社 2005-03-26
売り上げランキング : 92

おすすめ平均 star
star上四半期最大の収穫の1つ
star最高
star国家の罠」を暴露した書物

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
(私の本書の評価★★★★☆)
よかったら投票してください→人気blogランキング

><