新しい霞ヶ関を創る若手の会「霞ヶ関構造改革・プロジェクトK」

霞ヶ関構造改革・プロジェクトK霞ヶ関構造改革・プロジェクトK
新しい霞ヶ関を創る若手の会

東洋経済新報社 2005-11
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 この本を書いた新しい霞ヶ関を創る若手の会とは、平成9年に各省に入省した国家公務員の若手有志が中心となってつくったプロジェクトチームである。入省9年目の働き盛りの中堅官僚たちが自主的にチームを作り、霞ヶ関の問題点について議論を重ね、問題意識を深めていった。そこから生まれた提言書が本書である。宮本政於著「お役所の掟」ではないが、事なかれ主義がはびこる役所内で、現役若手が勇気を持って声を発したその意気込みに、まず賛辞を送りたい。
1 若手の会の問題意識〜霞ヶ関はどこがダメなのか〜
 若手の会の問題意識は次のとおりである。国家公務員は、国民全体のために質の高い政策の企画立案をすることが使命であるはずなのに、実際はそんな現状ではない。霞ヶ関では未だに所管業界、省益至上主義が幅を利かせており、政策は「族議員等の「声の大きい人」の意見や所管業界の声などに代表される一部の国民の声と、財務省総務省などのいわゆる制度官庁(査定する側の役所)への通りやすさを勘案して決まっている(4-5p)」。省益至上主義に代表される縦割り意識と、そして制度官庁とのヌルヌルの付き合いが政策を歪めているのである
 また決断すべき人が決断していない点も指摘している。政治家(大臣など)は面倒な話に下手な決断を下すと人気が下がるため、面倒な話は「事務的に決める話だろう」ということで決断を避けてしまう傾向があり、決断が次々に、本来決断権限のない現場レベルに下がってきてしまうということである(10p)。そうなると、官庁同士の横並び意識が前面に出てしまい、結局、何がやりたいのか分からないような玉虫色の政策が出来上がってしまう。このような曖昧体質が当然となっている霞ヶ関では、「各所の反対が起こらないように適宜みんなの意見を取り入れて方向性が曖昧な一案をまとめあげ、「誰もがOKと言っております。」として上司に決断を求めない・・・こうした根回し上手な者が高い評価を得る」(10p)という事態になってしまう。
 業務関連の非効率の面の指摘は、私の職場にも当てはまると思った。つまりは霞ヶ関では、「業務を廃止することは、所管している法令、予算、人員などを失うことであり、権限の低下を招くとんでもないことである」と考える悪習が未だに色濃く残っている」(18p)のである。公務員数は減少しているのに、業務だけはなかなか廃止されることなく年々積み重ねられていくため、職員は従来業務をこなすのに精一杯という状況に陥っており、とても新たにゼロベースから調査をかけたり、本質的な議論を行い得る環境にはない。(18p)
2 若手の会の改革案〜方針のメリハリと業務の効率化など〜
 若い手の会の改革案として、まず第一に「総合戦略本部」(新設)の設置が提言される。この機関は、政策の司令塔である。総合戦略本部は、全体的な視点から総合戦略を練ってそれを各省各部局に実行させ、一方で各省各部局が対立している場合には、その総合戦略に基づいて争いを仕切ることのできる機関である。すなわち総合戦略の策定機能、その実施を担保するチェック機能、そして争いに対する裁判機能という3つの機能をこの機関はもつ(55p)。これを官邸の直下に設ける。
 総合戦略本部という政策の司令塔を作ることにより、政策の総合性が担保され、また政策の優先順位が決まることにより省益至上主義に代表される縦割り意識の弊害を押さえ込むことが可能となる。また面倒な話や難しい判断がどんどん上に上がるようになり、これまでのように判断が次々に現場レベルまで落ちてくる弊害も少なくなるだろう。
 今の政府には経済財政諮問会議という会議がある。これが現在、政策の司令塔に近い役割を果たしつつあることは事実であろう。予算作成前に諮問会議で「予算の全体像」というペーパーを作成し、この方向性で予算編成するように義務付けている。ただし諮問会議は規模がそもそも小さく、総合戦略本部がもつような3つの機能(総合戦略策定機能、チェック機能、裁判機能)はもっていない。また諮問会議はそもそも予算編成に関して制度的に権限をもっている機関ではなく、小泉首相のリーダーシップで権限を持たせている機関である。小泉政権後は諮問会議が同じように働ける保障はどこにもない。この点でも総合戦略本部構想とは異なる。
 業務関連の効率化は、メリハリのつけた予算査定などが挙げられている。つまり総合戦略本部から査定部局(財務省主計局など)へ予算の大枠の提示があり、その方針の中で査定部局は予算付けをおこなう。これまでのシーリングや、スクラップアンドビルド方式は得てして「みんなで痛み分け」予算となってしまうので、総合戦略本部であらかじめ重点的に付ける政策と削る政策を決めてしまうのである。こうすれば言葉だけではない、メリハリのついた予算となる。

*中央官庁の内実を赤裸々に語った告発本の元祖。英語、独語、仏語に訳された国際的ベストセラー。

お役所の掟―ぶっとび霞が関事情
お役所の掟―ぶっとび霞が関事情宮本 政於

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(私の本書の評価★★★★☆)
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