石城謙吉「森はよみがえる―都市林創造の試み」

4061492209森はよみがえる―都市林創造の試み
石城 謙吉

講談社 1994-09
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 森林管理の現場で働く人々にとっては非常に実践的な本である。
 著者の石城謙吉は、大志を抱き、北海道大学苫小牧演習林に赴任し、演習林の一大改革に乗り出した。1973年のことである。木材生産の山づくりをつづけ荒廃した演習林を、①在来広葉樹を重視する森づくり、②市民との連携に基づく森づくりへ一気に転換したのである。
 昨今の環境流行で環境本は洪水のように出版されているが、「では、どうやって森づくりをするのか?」の技術本がほとんどない。環境保全の必要性を声高に訴えるだけで、環境保全のための施業技術に関する記述がないのだ。あったとしても、従来の木材生産施業技術に少しだけ毛が生えた程度の、物足りないものがほとんどである。
 一般的にしばしば誤解されているが、木を植えることがただちに環境に良いわけではない。鬱閉したカラマツ林は林床が暗く、生物多様性が裸地よりも低い。森林の保水力と言うが、実際は、森があることによって年間の水の流出量はむしろ減ってしまう場合もある。森づくりによって環境に負の影響を与えてしまう場合もあるのだ。「木を植えることは良いこと!」みたいなメッセージが安易に垂れ流されている現状だが、真に環境保全の森づくりをするためには、そこには綿密に検討された技術論が不可欠なのである。
 石城先生は、こんな技術論不足の現状の中で、30年前から環境保全をめざした森づくりを実践してきた。その先駆性と独創性と継続力は驚嘆に値する。本書には、石城先生が苫小牧演習林での試行錯誤の経験から培ってきた、環境保全のための具体的な施業技術がキラ星のごとく紹介されている。やや専門的なので一般の読者には理解が進まない部分もあるかもしれないが、森林管理に携わる人や研究者にとっては名著であろう。

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(私の本書の評価★★★★☆)

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