堺屋太一「日本を創った12人〈前編〉」

日本を創った12人〈前編〉
堺屋 太一

PHP研究所 1996-10
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 ベトナムで読んだ本の第一弾として本書を取り上げたい。「えっ、ベトナムのビーチで日本の歴史の本を読んだの!?」と驚かれる方もいるかもしれないが、海外に行ってるからこそ日本に関する文献が真剣に読めるという側面もある。
 本書(前編)は、聖徳太子光源氏源頼朝織田信長石田三成徳川家康と6人の歴史的人物を取り上げ、彼らの人生を振り返りながら、彼らが残した遺産を洗い出していくものである。「日本の過去の歴史を知ることが大切」といういわゆる温故知新のスタンスが、大きな変革期を迎えている現代日本の今後を考えるうえで役立つはずだ、という堺屋の信念が本書を書かせた。

1. 織田信長の経済改革「楽市楽座

 本書で取り上げている人物で最も印象に残るのは、織田信長だ。あまりにも有名な人物なのでここで改めて取り上げるのも気恥ずかしいが、やはり信長の「楽市楽座」は特筆すべき仕事で、混迷の現代を考える上でも参考になると思われるのでここに取り上げたい。
 楽市楽座は、関所や座(業種別の商人グループ)を全廃し、今でいう規制緩和を実施し、自由経済を活発化させる一大経済政策である。それまで関所での通行税は各大名の財政を潤し、また座からの運上銭は有名寺社や京の公家に入っていた。この重税システムは武将や有名寺社などにはまことに美味しいシステムだったが、一方で商人にとっては商売がやりづらく、経済活動を萎縮させてしてしまうものだった。信長はこれを全廃する。経済活動を活発にすることで彼の拠点の中部地方の経済力を高め、それで肥え太った商人たちから場銭を取った。こうして信長は財政基盤を安定させ、潤沢な資金力を使って兵隊を雇い、当時高価だった鉄砲を大量購入する。有名な長篠の合戦では、3千丁の鉄砲を並べて、当時の「天下最強」といわれた武田騎馬隊を撃滅する。信長はこのようにドラスティックな経済改革を推し進め、天下統一まであと少しのところまで登りつめた。
 しかしこの楽市楽座政策は、当然のこととして、それまでの既得権益者たちから猛烈な反発を受けた。寺社や公家、各武将と対立し、反乱、信長暗殺計画が相次ぐ。一向宗の中心であった石山本願寺と戦争し、側近の家来も何度となく反乱を起こした。それでも信長は政策を変えず、天下統一に向けて突き進む。そしてついに家臣の明智光秀の反乱に倒れる。本能寺の変である。

2. 突然ですが、ライブドア堀江社長の挑戦

 さて、信長の楽市楽座政策は、現代の社会を考える上でどう参考になるのだろうか?
 わたしは織田信長と、今話題のライブドア堀江貴文社長が重なって見える。堀江氏率いるライブドアは今年の1月にニッポン放送株を大量取得し、フジサンケイグループへの挑戦状をたたきつけた。これに対し、ニッポン放送フジサンケイグループ、および政治家の一部は猛反発し、ライブドア時間外取引は不当等批判しまくり、「こんなことってあり?」的な手法の新株予約権発行をもくろみ、それが高裁でダメ出しされると、ソフトバンク・インベストメントSBI)に対してニッポン放送所有のフジ株貸し出しを決めた。「もう何が何でも、ライブドアはやだもんね」的な態度が丸出しの行動である。マスメディアの多くも、堀江社長の揚げ足を取るような報道を繰り返している。

3. 記者クラブ制度が瓦解する

 結論を言うと、わたしはライブドアの破壊者としてのロールを高く評価したい。ITという新興業界の一会社が、記者クラブ体制のなかでヌルヌルと仲良しクラブを作ってきた既存メディアを脅かしているのである。記者クラブ制度の問題点は、主に「権力との癒着」、「閉鎖性」、「横並び体質」、「便宜提供」の四つが指摘されているが、ここでは詳しく触れない。詳しく知りたい方は下記のシンポジウム動画をどうぞ!
http://www.videonews.com/fccj-kishaclub.html
 記者クラブ問題の視点から見れば、ライブドアがたとえフジテレビの経営に参画できなくても、ニッポン放送の経営権を握っているだけでも大きな意味がある。なぜならニッポン放送記者クラブに加盟しているので、記者クラブの仲良し閉鎖集団の中にライブドアが新規参入できるからだ。これまで記者クラブという閉鎖集団の中で、事前に打ち合わせ、タブーを作り、スポンサー企業の悪事には片目をつぶり、ヌルヌルと政治と付き合っていたのに、新参者のライブドアがタブーを無視し、ラジカルに調査報道をやり、そして総理官邸での記者会見の模様をHPでオンデマンドで配信し始めたらどうなるだろうか。もちろんテレビも新聞も大打撃を被るだろう。独占市場であまあまでやってきた企業が、突然、自由競争の荒波に放り出されたらその結果は…。

4. ライブドア堀江社長は現代の織田信長である

 このライブドアの挑戦が、織田信長の「楽市楽座」政策と重なるのである。既得権益者が、信長時代は寺社や公家などで、現代ではニッポン放送をはじめとするフジサンケイグループであり、そして何と言っても記者クラブに所属する既存メディア全体である。織田信長既得権益者の猛反発に屈することなく、楽市楽座の導入を進めた。そしてこの行動が、豊臣秀吉徳川家康につづく天下統一の布石となる。ライブドアもバッシングに屈せず、織田信長のように、記者クラブに切り込んでいって欲しい。堀江社長の狙いが経営という儲け主義であったとしても、結果として、記者クラブ制度を壊すことにつながれば彼の行為は国民益を高めるのである。ライブドアが新たなメディア体制を構築できるかは分からないが、強固な秩序が一度壊れれば、次なるものが新たな、より良きシステム構築のために汗をかくだろう。そう、豊臣秀吉徳川家康のように。
日本を創った12人〈前編〉
(私の本書の評価★★★★☆)
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