伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」

ゴールデンスランバー
ゴールデンスランバー
新潮社 2007-11-29
売り上げランキ ング : 183

おすすめ平均 star
star映画 を観てからの読了。
star最後の詰 めだけが・・・
starあれ?と数ペ ージ前から読み直して確認するのが大変

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 天才的な能力を持つ、知り合いの先生が本書を絶賛していたので、伊坂幸太郎なる作家の「ゴールデンスランバー」という作品を読んでみた。「ゴールデンスランバー」といえば、私の大好きなビートルズの楽曲を思い浮かべるが、予想通り伊坂もビートルズのそれにインスパイアされてこの作品を書き上げている。名曲にインスパイアされて小説を書いた点では、村上春樹の「ノルウェイの森 」と同じだ。伊坂は村上作品も読んでいるかもしれない。
 よく練られたストーリーでとても面白く読んだ。

 文体が決して洗練されているわけではない。たとえば村上春樹のように都会的で洗練された表現や、たとえば山崎豊子のような多彩で豪華絢爛の表現がそこにあるわけではない。よどみなく流れるような文章がそこにあるわけではない。それどころか時々、素人っぽい表現すらあり、読みながら戸惑うこともあった。

 しかしそういったマイナスを補って余りある魅力が伊坂にはある。それは、彼の発想力とリアリティ感覚、そして構成力だ。
 「ゴールデンスランバー」は、平凡な社会人の主人公が突然、仙台で起こった首相の暗殺事件の犯人に祭り上げられるという破天荒なストーリーである。ある組織によって周到に準備され、罠にはめられた主人公・青柳雅春。まったく無実の主人公が、警察に追われ、マスコミからは一方的な猛バッシングを受けるという、想像を絶する不条理。国家権力が個人をターゲットにした時の圧倒的な暴力性、監視カメラ社会の恐ろしさ、テレビや新聞など大手マスコミのいい加減さと第四の権力としての暴力性。大学時代の友人に裏切られ、主人公は人間不信に陥りそうにもなる。それでも主人公は、次々と襲い掛かる試練に耐え、両親や友人との絆を糧にして懸命に抵抗する。

 事件の勃発を皮切りに、予想もつかない展開の連続で、劇的なエンディングまで一気にストーリーを疾走させていく。見事な発想力と構成力だ。国家の恐ろしさやマスコミのいい加減さの描写には妙にリアリティがある。読んでいて、自分もいつ主人公のようになっても不思議ではないなと思った。現代社会の国家や国民、マスコミが持つさまざまな問題点をリアルにあぶり出し、そして物語全体のメッセージとして、人と人のつながりの大切さ、人を信頼することの大切さを説いているように読める。

 ビートルズが最後に録音したアルバムは「アビーロード」で、その後半には壮大なメドレーの曲があり、その中の一つが「ゴールデンスランバー」だ。イギリスの子守唄をポール・マッカートニーがアレンジした曲だ。解散直前のバンドにおいて、ポール・マッカートニーは孤軍奮闘し、それぞれ別々に録音された曲を必死につなぎ合わせ、名曲に仕上げたのだ。伊坂は、この曲をめぐるそんなエピソードを、このストーリーに重ね合わせて物語を綴っていく。

 「逃げる」というラストはまったく予想外の結末だった。しかし読了して冷静に考えてみると、敗北するとか勝利するとかではなくて、「逃げる」ということで良かったな、と納得した。

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(私の本書の評価★★★★☆)
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