ドストエフスキー著、亀山郁夫訳「カラマーゾフの兄弟2」

カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)
カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)亀山 郁夫

光文社 2006-11-09
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star5★歴史的大作の大審問官を現代日本で読み解くメモ■誰もが「白い巨塔」の里見になれるわけじゃない
star2つのとても重要な話
star(;//Д//)<イワンの大審問官も収録されているわよ・・・

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 ドストエフスキー作品のイメージをわたしなりに言うと次のようになる。それは先日行った床屋での経験を例に言うことができる。

 先日、隣町のオープンしたばかりの床屋に行った。安いという噂だったので行ってみたのだが、店に入ると、ガラーンとした12畳くらいのスペースの片隅に、床屋の店主らしき人がひとり、暗い顔で英字新聞を読んでいた。店内はまだ床屋の機材も十分に揃っておらず、引越したばかりのような光景だったので、「まだオープンしていないのかな?」と思い引き返そうとすると、英字新聞を置いた店主が「いらっしゃいませ」と、いそいそと近づいてきた。わたしは、第一声からこの店主につよい違和感を覚えた。

 40〜50歳くらいの中年の男性だが、話していても心ここにあらずという感じで、正直気味悪かった。店主は媚びへつらうように話すのだが、異物に話しかけられているようで嫌悪感が沸く。店内はどんよりと重苦しい空気が充満している。店主はそれを察知してか、雰囲気を変えようとしてしきりに話かけてくる。しかし彼が声を発すれば発するほど、彼への嫌悪感が増幅されていく。彼の雰囲気を例えれば、カラマーゾフの兄弟に登場する下男スメルジャコフに近い。今どきの女子高生風に言うと、「このおじさん、きも〜い!」という感じ。「不快なので早く終わらないかな」と思い、これ以上話しかけられないように目をつぶった。
 どれくらい時間が流れただろうか。「終わりました」という声に目を開けると、なんと、「スポーツ刈り」と言っておいたはずが、6分の丸刈りにされていた。この店主はお客のリクエストすら聞いていなかったのだ! 
 予想もしなかった展開に唖然としていると、店長はわたしの雰囲気も察しないで「また是非是非お越しください」と繰り返す。怒りを通り越して呆れてしまった。その媚びるような顔は過度に卑屈で、ジメジメと湿っぽく、卑しいものすら感じてしまう。この空間にはもういられないと先を急ぐことにした。支払いを手早く済ませ、急ぎ足で店を出た。もう二度とこんな店来るか!と心の中で叫びながら・・・。

 普通の感覚をもつ人なら、もうこのような不快な店には二度と行かないだろう。わたしも行かないつもりだ。しかし、ここでドストエフスキーに戻る。
 ドストエフスキー作品に登場する登場人物たちは、このような状況でも、いやこのような状況だからこそ、敢えて、この不快な店を再訪するのだ。吸い寄せれるように店を再訪し、そこで再び不愉快な目にあい、登場人物は精神がかき乱され、事件に巻き込まれていく。そしてしまいには神経症みたいになっていく。
 これは店という場だけではなく、人物でも同じことだ。ドストエフスキー作品の登場人物たちは、不快で気味悪い人に敢えて近づいていく。そして接触を繰り返し、半狂乱になっていく。

 気味悪く不快な場所や人を敢えて再訪する。それがドストエフスキー作品のストーリー展開の基本である。病的な場や人物と敢えて接触させることで、人間に潜む欲望や悪魔を引き出そうとしているのである

 (私の本書の評価★★★★★)
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