製紙業界の環境偽装はこれからの時代のキーワードだ

 王子製紙日本製紙など製紙業界の古紙配合率の偽装が次々と発覚している。
 紙・パルプ業界の大手のほとんどすべてがこの偽装に関わっているのだから、この業界全体が偽装に手を染めていたことは間違いない。最大手の王子製紙は年賀はがきの配合率40%と謳っておきながら実際は0%、大王製紙はコピー用紙の配合率100%と謳っておきながら実際は7%と、その乖離率はすさまじく、誇大宣伝ぶりも尋常ではない。


1 食品業界における「デフレ偽装」
 昨年末に発表された日本漢字能力検定協会による2007年度の世相漢字は「偽」だった。しかし昨年話題になった食品偽装と、今回の製紙業界の偽装は同じ「偽装」でも内容が異なると感じた。
 昨年のミートホープ白い恋人などの偽装は、デフレ基調下におけるコスト削減・利益率アップのための偽装だった。グローバル経済下において、食品業界は熾烈な価格競争の波に飲み込まれている。その荒波に抗うため「安いものを!」「商品を無駄にしない!」とトコトンまで追い求めて、ミーとホープは安い鶏肉などを混ぜ、白い恋人赤福、吉兆などは賞味期限切れの商品をごまかし売りをした。グローバル経済におけるデフレ基調下で起きた偽装だった。昨年の偽装を大雑把にくくると、「デフレ偽装」と呼ぶことができよう。
 しかしこれまで報道されている内容によると、今回の製紙業界の偽装は決してコスト削減のためにやったわけではない。逆に古紙配合率を下げてしまうと、それだけ割高な木材(チップ)を使わなければいけないのでコストは上がるという。これが昨年の食品業界の「デフレ偽装」とは違う点だ。


2 製紙業界における「環境偽装
 それではなぜ製紙業界はコストが高くなるような偽装をしたのだろうか?
 それを読み解くキーワードは「環境」だ。
 近年、社会の環境意識の高まりから、古紙利用=リサイクル=環境に良いというイメージ連関で、古紙配合率の高い製品が社会から求められるようになった。しかし日本製紙が説明しているように「古紙配合率が増えれば、チリなどが紙に残るため」品質は著しく下がってしまう。それを防ぐため「古紙配合率を下げて品質を確保」したのである。社会が求める環境ニーズに企業の技術力がついてきていない。技術が追いついていない中でも市場のニーズに応えていかなければ、企業は生き残っていけない。技術力と市場ニーズとのギャップを埋めるには「偽装」という手段しかなかった。それでなくても製紙業界は、好調といわれている他の業界よりも経営状況が厳しい。これが今回の製紙業界の偽装の背景と考えられる。つまり昨年の偽装を「デフレ偽装」と呼ぶのなら、今回の偽装はまさに「環境偽装」と呼ぶことができるのである。


3 これからの時代のキーワード「環境偽装
 環境偽装は、間違いなく、これからの時代のキーワードになるだろう。企業や行政らによる環境偽装は、これから爆発的に増えると予想される。
 地球温暖化問題に端を発し、京都議定書で作られた仕組みで排出権取引というものがある。少しずつ報道ベースに乗るようになったが、世界に先駆けて域内における排出権取引の市場を作ったEUは、その市場が急拡大しており、市場規模は6兆円を越えると言われている。アメリカでは、健康と環境に配慮した商品の市場(ロハスLOHAS)が注目を集めており、その市場規模は約30兆円と言われている。環境は、確実に今世紀のビジネスの主流のひとつになりつつある。
 一方、環境技術の進歩は、市場の急拡大に追いついていない。今回の製紙業界の古紙配合の技術もその一例であろう。その技術は非常に専門的なので、外部がチェックして間違いを指摘することも難しい。
 また環境技術には、その効果を証明しにくいという点もある。たとえば地球温暖化は、「地球全体」が対象であまりにも広域生態系であり、対策の効果を検証することが非常に困難だ。そういう曖昧な領域には、確信犯的なまがい物も忍び込みやすい。グレーゾーンには悪魔が忍び込む、というのはこれまでの社会が経験してきたことだ。
 行政だって、他人事ではない。健康・環境の例ならば、たとえば2006年冬に報道された、林野庁による花粉症データの偽装が挙げられる。スギ花粉対策で2002年から調査してきた林野庁だが、間伐と花粉症の効果について十分に実証されなかったにも関わらず、机上の数値データをもぐりこませ、効果ありと発表していた。専門的なのでバレッこないと思ったのであろうか。
 逆に考えれば、環境分野に携わる者にとっては、環境対策にどれだけ明確な根拠をもってこれるかどうかが、今後成功するかどうかの分水嶺になろう。科学というアプローチが有効であり、研究機関との連携は不可欠になる。
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