山崎豊子「白い巨塔〈第4,5巻〉」

白い巨塔〈第4巻〉
白い巨塔〈第4巻〉山崎 豊子

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白い巨塔〈第5巻〉白い巨塔〈第5巻〉
山崎 豊子

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 財前五郎里見脩二を軸とした人間模様の続編。野望に燃える財前はさらに活動を活発化させ、誤診裁判の控訴審を闘いながら、学術会議選挙に立候補し選挙工作にのりだす。大学を追われた里見は、恩師である大河内教授の計らいで近畿がんセンターに職を得、水をえた魚のように研究に打ち込む。財前と里見は再び裁判で対決するも、財前の体に黒い影が忍び寄る・・・。

 続編も、膨大な医学的取材と、著者山崎氏の鋭い人間観察により、大学医学部を舞台とした人間ドラマはますますリアリティを放ち、人間性の暗部にまで食い込んだ作品となっている。山崎氏の人間観察力といえば、助手の柳原の裁判所での心象変化の記述は、彼女の人間認識の深さの真骨頂といえる。
 誤診をした財前教授は、当時の担当医だった柳原に、恫喝し、博士号付与の権限をちらつかせ、またお見合いをセッティングしたりのあの手この手で、徹底的な口封じをして、裁判所では虚偽の証言を強要させた。田舎の豊かではない家庭に育った柳原は、家族の期待を背負うがゆえに将来を棒にふることができず、財前教授にしたがう。良心の呵責に必死に耐えながら地裁、控訴審を闘ってきた柳原だが、控訴審の最終段階で、財前が柳原に責任転嫁するような発言をしたとき、ついにこれまで押さえつけてきた感情が爆発し、大声を上げる。
「それは嘘です!」
 彼の良心が、圧倒的な権力を打ち破った瞬間であった。いくら権力者が強権的に振舞っても、人の心を完全に支配することができない。この人間社会の現実をするどく財前に突きつけた瞬間であった。蛇足だが、ホリエモンは「人の心は金で買える」といったが、本書「白い巨塔」でも読んで、人の心の動きの複雑さを少しは勉強してほしいものだ。
 また圧巻は、ラストシーンだろう。私は胃がんで死ぬ財前教授の最後の振舞いに、人間のむき出しの生き様をみた。財前は死を覚悟したが、それでも高裁で負けた裁判を覆すべく、最高裁の上告理由書を準備し肌身離さずもっていた。そこには、死ぬと分かっていても捨てられない財前のプライドがあった。しかし一方で、彼は自分の死体解剖に関する私見もしたためていた。財前の死後に遺体解剖をする先生への参考資料としてしたためていたのだ。今後の医学の発展のために、自分の死すら冷静に分析する科学者の真摯な姿がそこにあった。死という危機を目前にしながら、社会へのプライドと学究への真摯な姿勢という相反する2面性を混在させている姿こそ、まぎれもない人間の姿だ、とわたしは思った。ああ人間、これが人間、と唸りながら読了した。

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(私の本書の評価★★★★★)
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