大下英治「政界大迷走 亀井静香奔る!」

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大下 英治

徳間書店 2000-10
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 亀井静香という政治家が最近、気になっている。いま亀井氏は、ある意味では「時の人」でもある。
 今回の郵政改革における小泉首相との対決では、亀井氏のやることなすことすべてが失敗したように見えた。「公明党が反対しているのだから解散なんてできっこない」と高をくくっていたら、小泉首相はあっさり解散してしまい、男を下げてしまった。「自民党過半数を取れないから、新党を作って今後の政治でキャスティングボートを握る」と戦略を練ったけど、自民党が大勝したので新党の意味がなくなってしまった。派閥の長を追われ、自民党を追われ、ホリエモンまで送り込まれた。人生が山あり谷ありならば、今、亀井氏はどん底の谷の中にいるのだろう。
 しかしわたしのこれまでの亀井氏像は、昨今の負け組イメージではなく、勝ち組イメージだった。何といっても2000年の自民党政調会長時代に断行した、公共事業の大幅削減の実績は、クリアな印象として私の心に焼きついている。族議員がひしめく自民党であれだけの公共事業改革をやれる国会議員は、自民党の中にはほとんどいないのではないだろうか。小泉首相は確かに豪腕だが、改革という看板だけで中身が伴わないことが多々ある。今回の郵政法案しかり、道路公団改革しかり。しかし亀井氏は中身までしっかり踏み込み、方針を明確に示し、大鉈をふるう能力がある。必要なものはどんどんやる、不必要なものはバッサリと切る。最近は「抵抗勢力」というレッテルを貼られすっかり悪者扱いされているが、飲み込みの早さ、決断力、行動力と3拍子揃っている政治家と私は見ていた。彼は警察官僚時代に36歳の若さで連合赤軍あさま山荘事件の統括責任者だったことからしても、その能力は群を抜いているのではないかと思った。
 そんな亀井氏に昔から興味があったのだが、昨今の彼への安易なレッテル貼りを見ているうちに、ここで一度しっかりと、彼の人間性と仕事ぶりについて調べないといけないな、と思うようになった。メディア上の安易な論調を鵜呑みにしないように、自分自身でしっかり調べ、自分の頭で評価しなければいけないと思ったからである。そんなこんなで第一弾として本書を手に取った。しかし、これがとんだ期待外れのシロモノだった。
 「亀井静香奔る!」なんて、さぞ亀井氏の素顔に迫るルポのようなタイトルをつけているが、本書は、亀井氏を追ったルポではない。1999年から2000年までの自民党内の権力闘争の内実のルポである。小渕前首相と小沢自由党党首との連立離脱に関する交渉、森内閣誕生と失言騒ぎ、加藤の乱前夜。この一連の動きが、淡々とつづってあるに過ぎない。亀井氏に焦点を絞っているわけでも何でもない。全10章の中で、亀井氏に関する章は1章しかないのだ。しかも彼の人物像に肉薄するレベルの記述ではなく、非常にさらっとした内容である。亀井氏のことについて知りたい、と本書を取った方は心底がっかりする内容だ。
 名は体をあらわすというが、本書のタイトルは内容と合致していない。本書に適したタイトルをつけるのであれば「自民党の権力闘争の内実」とかそんな感じになるのではないか。本書が出版された2000年時に時の人だった亀井氏の名前を、本のタイトルに使えば売れるとでも考えたのだろうか。著者の大下氏がこのタイトルをつけたのか、出版社がつけたのかは分からないが、このような行為は不誠実といわざるを得ない。本当にがっかりした。

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(私の本書の評価★☆☆☆☆)
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