佐藤昭子「決定版 私の田中角栄日記」

決定版 私の田中角栄日記
410148631X佐藤 昭子

おすすめ平均
stars真実は時間が導き出すか
stars見るものの「虚」「実」
starsまさに、田中角栄の側近の知られざる日記

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 長年、田中角栄に秘書として仕え、角栄の支持母体である越山会を始めとする政治団体、関係事務所の統括責任者として活躍した佐藤氏の回顧録。事務所内での角栄との、ちょっとしたやり取りや、他の政治家との交流など、秘書しか書けない内容が随所に記述されており、興味深く読んだ。そこからは角栄の猛烈な仕事ぶりはもとより、角栄の一言を、神の声よろしく忠実に守る名秘書、佐藤氏の姿も浮き彫りになっている。
 一読して、非常に女性的な記述の仕方だな、と感じた。わたしの大雑把な把握では、男性はモノゴトを全体の構図で見据えた上で論理的に分析したがるが、女性は全体構図や論理というよりも、身の回りのことを素材に情に訴えて判断したがる。もちろん例外はあるし、こういう女性像を提示するとフェミニズム先生たちは怒るかもしれないが、わたしのこれまでの観察ではこのような区分は妥当ではないかと考えている。
 本書もこの区分に漏れず、佐藤氏の女性の視点で、角栄に連れ添った33年間の政治生活について、身近な出来事を中心に淡々と書かれている。角栄の政治生活を、全体構図ではなく身近なことから、論理的にではなく情に、感覚的にレポートしている。したがって角栄の人間像や仕事ぶりを総合的に評価したい読者は、他の著書も同時に読んで相対化する作業が必要となろう。
 それにしても下記の記述は、政治家たる者たちの生態の一端を的確に示しているのではないか。
「国会議員というのは実におかしな人たちだと思った。怒鳴り合いや、つかみあいのケンカをしても、簡単に仲直りしてしまう」(51p)
「政治家同士の話というのは、よもやま話をしながら、腹芸で互いの意図を察知するものらしい」(184p)
「(田中が倒れてからというもの)田中派幹部の薄情なこと。病院へは時々、顔を出しているらしいが、事務所を訪ねる者はほとんどなし」(200p)
 また「実るほど頭の下がる稲穂かな」(69p)をモットーにした田中事務所の方針は、いつまでも謙虚であり続けようとした角栄の意思がうかがえる。
(私の本書の評価★★★☆☆)
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