伊丹十三監督「マルサの女」

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伊丹十三

ジェネオン エンタテインメント 2005-08-24
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 だいぶ昔にテレビで見たことがあったが、今回、我が家の正月休み映画週間ということで、伊丹十三監督「マルサの女」を借りてきた。

 国税庁という普段はスポットが当たらない地味な官庁を舞台として、宮本信子扮する国税庁の職員が、脱税を繰り返す会社社長を追い詰めその仕組みを暴いていく展開。国税庁に狙いをつけたところが斬新だし、わたしたちの知らない世界の実態を次々と紹介してくれて好奇心をそそるし、テンポが良いのでドキドキ感があり娯楽性に富む。とても楽しく見れる映画だ。

 仕事で経理をかじっているので、今回は以前より余計に楽しめた。

 脱税のポイントの一つは、現金の収受だ。
銀行への振込み、手形決済などはどうしても履歴が残る。誤魔化せない。しかし現金のやりとりは、領収書さえ誤魔化し帳簿に付けなければ見えなくなる。以前、わたしの所属する組織の監事さんから「現金の出入りだけはしっかりつけろ」と厳しく指導されたが、まさに的を得た指摘だったのである。

 本作品では、ラブホテル経営者が、利用者が領収書を求めないことを利用して、現金収入の大半をなかったことにして、裏帳簿を作っている。帳簿から消えた現金は、社長の裏部屋に隠しまた銀行の架空口座に隠している。法人税等は純利益にかかるので、税金を払いたくなければ純利益を低く、又はなくすれば良い。そのため死にそうなおじいさんをターゲットに架空の会社を作り、架空融資をして焦げ付いたことにする。手元に残った現金は裏口座等へ。暴力団へは契約書のない融資をする。税務署が暴力団に聞き取りしてもすごみ、脅すので話が進まない。このように、ありとあらゆる方法を駆使して、会社社長は脱税体系を構築している。預金がほしい銀行、政治家まで巻き込んでいるところにもリアリティがある。既存制度を逆手に取った、実に良くできた仕組みだ。

 映画の後つらつらと考えてみたが、脱税の手口は次の2つにまとめられるのではないか。どちらとも純利益を低くする、またはなくするための手法だ。
 一つ目は、本作品に描かれているように、収入を少なく見せること。収受手段を現金にして、二重帳簿をつける手口だ。
 二つ目は、支出を膨らませること。息のかかった子会社や懇意の会社に架空融資や不当に高い値段で支払ったことにする。そして相当額を見えない形でキックバックさせて収入を得る方法。

 それにしても、裏金というものはつくづく保管に困るものだよな。個人の口座に入れると税務署に見つけられるし、高い買い物で現金一括払いをしても怪しまれる。結局、本作品のようにタンス預金するか、銀行に裏口座を作ってもらうしかない。どちらの方法も落ち着かない方法だ。

 最近の脱税プロたちはどうやって保管しているんだろう。やっぱりタンス預金か。又は、なんらかの手段で海外に持ち出してスイス銀行や、中米のケイマン諸島の銀行に預けてるのかな。

 まあ、サラリーマンとしてケツの毛まで抜かれて税金を払っている者から見れば、国税庁の職員には今後も頑張ってもらってしっかりと税金を集めてほしい。暴力団にも屈しないでほしい。

 開業医や自営業者の脱税は多いと聞く。税務署や国税庁の人員を拡充して、こういうところから徹底的に取ってほしい。政治の世界では公務員人件費の削減などと言って大衆迎合を狙っているが、公務員の経費を削減し人員を減らすことは公共サービスの低下をもたらす。公平な税負担の原則を守ることすらおぼつかなくなる。そういうことも考えてほしいものだ。

 最近の国民やメディアは、特定のターゲットを見つけてバッシングして、フラストレーションを解消し、溜飲を下げる傾向が強く出ている。公務員批判などはその最たるものだ。改革すべきところは改革すべきだが、批判すること自体が目的化している例が散見される。そういう社会は決して良い社会じゃないと思うんだけどなぁ。

(私の評価★★★★★)
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