「新版 北海道の歴史(下)」

1 林務畑出身の北海道知事の二人
 北海道は不思議な政治風土を持っている。伝統的に社会党系(革新系)が強い傾向があったし(最近は徐々に保守化しているかもしれないが)、北海道知事の系統を見ていっても不思議な流れがある。たとえば初代民選知事の田中敏文氏。本書で初めて知ったが、彼は道庁林務部森林計画課森林土木係長。当時は木材価格が高かったので林務部にも勢いがあったのだろうか? それよりも彼は当時は全道庁労組委員長だったので、労組パワーの強さがモノをいっただけのような気もするが。
 さらに驚くのは平成7年に知事に就任した堀達也氏。入庁以来、林務畑をひたすら歩いてきた生粋の森林屋。しかし一方の林業は1970年以降は構造的不況に見舞われ、1次産業の中ではもっとも元気のない産業。道有林経営などはかつての脚光はどこへやらで、今は完全に金食い虫の、荷物状態となってしまっている。
 役人上がりの知事で一般的に言えるのは、その地域の主力産業を生きてきた人が多いこと。主力産業であれば庁舎内でのパワーもおのずと付いてきて、出世しやすい。北海道ならやはり主力は農業、そして漁業とつづくところ。そして三次産業あたりか。戦後から高度成長あたりまでは炭鉱系も強そうだ。しかし田中氏にしても堀氏にしても林務畑の人間。林務畑の知事が戦後2人も誕生した都道府県は少ないのではないか。
2 社会党系が強い北海道の副作用
 先ほど、北海道は伝統的に社会党系(革新系)が強かったと述べた。しかし強かったことは思わぬ副作用を呼び込んだ。その最大のものは、1951年に発足した北海道開発局の設置だ。この動きは北海道開発に対して主導権を得ようとする国の巻き返し攻撃である。道側の「地方自治の侵害だ」という反対もむなしく強行された。開発局は今でも権限・予算で強い影響力をもっている。河川管理などでは、たとえば環境分野は北海道所轄河川よりも、開発局所轄河川のほうがよっぽど積極的に取り組みを行っている現状は皮肉と言えるかもしれない。
 1957年、文芸春秋に有名な論文、中谷宇吉郎「北海道開発に消えた8百億円ーわれわれの税金をドブにすてた事業の全貌ー」が発表された。このレポートはこれは道庁肝いりで始まった研究会が作ったレポートを、北大教授で雪の結晶の研究の第一人者であった中谷宇吉郎氏が噛み砕いて作ったものであり、明らかに北海道側の国への反撃だった。

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