ボブ・ディラン評
ボブ・ディランの代表3部作
ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム(紙ジャケット仕様) | |
ボブ・ディラン Sony Music Direct 2004-08-18 売り上げランキング : 9,383 おすすめ平均 夜明けの時代 イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー 時代が動いた Amazonで詳しく見る by G-Tools |
追憶のハイウェイ61(紙ジャケット仕様) | |
ボブ・ディラン Sony Music Direct 2004-08-18 売り上げランキング : 3,081 おすすめ平均 疾走する革命児ボブ・ディラン ボブディランの名作中の名作であり世界音楽史にその名を刻む傑作 何故,このアルバムタイトルが61号線なんだろう? Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ブロンド・オン・ブロンド(紙ジャケット仕様) | |
ボブ・ディラン おすすめ平均 不完全な完全(完全な不完全) What is this Dylan? 悲しい目をしたロウランズの女性を想う ディランは「水銀のようなサウンド」といった。 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1. 説明が難しいディランの魅力
「このシンガーのどこが良いの?」と聞かれて、ボブ・ディランほど説明が難しいシンガーもいない。ダミ声だし、今の流行の曲のように洗練されてなくあら削りな曲が多いし、特に初期の作品はフォークソング中心で地味だ。さらに加えれば、そもそも独創的な歌詞が高い評価を受けている歌手なのに、英語だから歌詞の内容を把握しにくい。このようにディランのデメリットはすぐに思いつく。
これまでディランをいろんな人に紹介してきたが、初めてディランの曲を聴いた人が「これはすごい!!」と即答したことは一度たりともない。皆、「この人のどこが良いの?」という顔つきをする。この異色のシンガーの魅力を伝えるのは本当に難しい。ビートルズ、ストーンズ、Queenなどのロックの大御所の中で、ディランはその魅力を最も説明しにくいシンガーと思われる。
2. ディランとの付き合い
今日(04.9.7)、久しぶりにディランを聞いた。学部生だった頃、あれだけ聴いて、ギター片手に歌っていたディランの曲だったが、大学院に入って聴かなくなり、就職しても聴かなかった。この9年は、洋楽より邦楽(ミスチルや中島みゆきなど)に偏っていた期間だったから、ディランから遠ざかっていたのである。
今回、本当に久しぶりディランを聞いて、涙が出るほど感動した。メロディーが流れると、胸が締め付けられるような懐かしさが込み上げてくる。学生時代の思い出が走馬灯のように思い浮かぶ。古い木造の貸間で、近所の迷惑をかえりみずに、「One two many morning」「It’s all over now, baby blue」等のディランの曲を、ギターをかき鳴らし、一人で歌いまくっていた。自意識過剰、ナルシスト、己知らず、万能史観、孤独な自分との戯れ、そんな青っちい、青春時代の私の感性にディランはぴったりとフィットしたのだ。
3. ディランの魅力を語る
ディランの魅力とは何か。ディランにどっぷり浸かっていた学生時代には整理して考えたことはなかったが、9年間のブランクを経て、今改めて考えてみたくなった。上記に書いたとおり、ディランの魅力を説得的に語るのは難しいが、微力ながら挑戦してみよう。ディランの魅力を、私は次の3点に整理している。
まず第一に、メロディの美しさがある。これは彼のダミ声と、ラフな演奏によってなかなか分かりづらいが、しっかり聞いてみると、そのメロディ・ラインは非常に美しい。有名どころで言えば「Blowing in the wind」や「Don’t think twice, it’s all right」「Love minus zero」「Shooting star」、通好みの路線でいけば「To Ramona」「It ain’t me babe」「Sad eyed lady of the Lowlands」「Oh, sister」など秀逸なメロディを持つ曲がある。ビギナーの人たちは、彼のダミ声に圧倒されてしまい、このメロディの美しさに気付かぬまま、聞くのをやめてしまう。もったいない。
魅力の第二は、曲のノリの良さである。「I want you」「You ain’t going nowhere」のような曲は、聞いただけで踊り出したくなる。これらの曲は酒を飲みながら聴くと、それはもうまことに良い気分になる。
第三は、やはり詩の良さだ。誰にも真似できない詩をディランは書く。ディランの詩の流れは、飛躍の連続で意味不明な文が多いが、全体としては、彼の描きたいイメージがじっくり伝わってくる詩になっている。たとえばBlonde on Blondeという傑作アルバムの5曲目に「I want you」という曲がある。この曲は、下記のような歌詞からはじまる。
罪ある葬儀屋はなげく さびしいオルガン弾きは泣く
銀のサキソフォーンはいう きみをことわるべきだと
ひびわれた鐘と洗いざらしのホルンは おれの顔に軽蔑を吹きつける
でもそんなふうに きみを失うためにおれは生れてきたんじゃない
きみがほしい きみがほしい とてもほしい ねえ きみがほしい (I want you)
まず「罪ある葬儀屋はなげく」という最初のフレーズがいきなり意味不明だ。「罪ある葬儀屋」とあるが、葬儀屋は「死」を商売にしているから罪深いのだろうか? さらに次にフレーズでは、オルガン弾きは説明もなく泣いているし、サキソフォーンは突然喋りだしている。「葬儀屋」と「オルガン弾き」と「サキソフォーン」とつながりのなさそうな単語が連なる。このようにディランの詩のほとんどは、意味不明のフレーズの連続で構成されている。しかし不思議なことに、全体を読んでいけば、その詩のイメージが伝わってくるのだ。この「I want you」という曲で言えば、周囲は反対しても俺はただ君を欲しているという気持ちがじわりと伝わってくる。これがディラン・マジックなのだ。
最後に私のディラン・ベスト3。「Love minus zero」「I want you」「You ain’t going nowhere」だ。この3作品は甲乙つけがたい*1。
*1:初期のディランがプロテストソングをやっていた頃の曲を評価する人も多いが、メロディはともかく歌詞の面では評価できない曲もある。「戦争の親玉」のようなストレートはプロテストソングは、善悪の構図をあまりに単純に描いているので私は好きではない。