宮崎駿監督「もののけ姫」

もののけ姫
松田洋治 石田ゆり子 田中裕子 島本須美

ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント 2001-11-21
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おすすめ平均
大きな作品だと思います
心に残る名作
宮崎駿の「七人の侍

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1. 作品概要(AMAZONレビュー)

 ときは室町時代。タタリ神の呪いを断つために旅立った少年アシタカは、辿り着いたシシの森で、エボシ御前が率いる製鉄集団と森の神々が、争いを繰り広げていることを知る。そして彼は、人間でありながら森の神々に味方する少女サンに出会う…。
 生きるためには闘っていかなくてはいけないという、アシタカ、サンらの壮絶な生きざまを、ファンタジックなキャラクターを駆使して描いた、アニメ界の巨匠・宮崎駿監督作。構想16年、製作期間3年という力作。

2. 作品評

 空前のヒットを飛ばしている「もののけ姫」を見に映画館に行った(1999.9)。夏休み前に封切られ、当初、映画館ははち切れんばかりの大盛況で、切符売り場は長蛇の列がつづいた。「もう大丈夫かな」と思い8月の初めに行ったがむなしく、そのあまりの盛況ぶりにおののいて、そのまま帰ってきたのだった。そして今回、9月の中旬の2度目の挑戦で、やっと落ち着いて見ることができた。さすがに映画館も空いている。館内の売店でポップ=コーンを買い席につくと、さっそく映画がはじまった。宮崎駿最後の作品「もののけ姫」のはじまりである*1
a. 「もののけ姫」の魅力
 まず第一印象。主人公を輝かせる技術はさすが。この作品のタイトルは「もののけ姫」だが、内容的には、もののけ姫サンよりも少年アシタカの方に重点が置かれ描かれている。アシタカの行動力、正義感、苦悩には思わず共感してしまう。相変わらず宮崎駿は、主人公を輝かせるのが上手い。「風の谷のナウシカ」ナウシカ「天空の城ラピュタ」のパズー、「紅の豚」のポルコと言い、宮崎駿が作り出す主人公にはついつい感情移入してしまう。
 次に2点目。絵のうまさに思わず「うむむ・・」とうなってしまった。人間の顔の表情を動画で表現することはかなり難しいと思うが、宮崎作品はそれを難なくこなしてしまう。本作品の登場人物の表情は非常に愛らしく、かつ表情の変化がスムーズである。またもう一つ見落としてはならないのは、背景の樹木などを非常に正確に書くということである。これは、「ナウシカ」「ラピュタ」からずっと感心していたことなのだが、その喜ばしい宮崎作品の伝統はこの作品にも受け継がれている。
b. 「もののけ姫」批判
 さて、この作品が高いレベルにあるということを十重に断っておきながら、いよいよ批判作業に入りたい。
 この作品の批判は次の1点に尽きると思う。つまりラスト場面の描き方があまりに雑で陳腐なもの、ということ。この作品は、森を破壊しようとする人間たちと、これを守ろうとする森の動物たちの対立を軸にストーリーが展開する。より豊かな生活を求め居住域を広げてゆく人間たちと、それによって住みかを奪われる動物たちの対立は、現代にも通じる大きな問題である。もし弱肉強食の精神でかんがえるならば、人間より力の弱い動物たちは滅びて当然といえよう。しかし、共生の精神でかんがえれば、動物などの生存のために人間は我慢せねばならない。本作品はストーリーが進むほどに、人間と動物の対立が激しくなっていく。クライマックスで、主人公のアシタカはこう叫ぶー「どうにかならないのか?」。
 わたしはとても期待した。これまで数々の名作を生み出してきた宮崎駿なら、この難しい問題をどうにかして解いてくれるに違いない。何か明確な答えを示してくれるに違いない。さあ、宮崎氏、どうさばくのですか? お手並み拝見といきましょう。わたしは期待した。
 しかし…。結局答えは示されなかった。森の守り神は人間によって殺され、動物たちは敗れたのである。すべては今までの歴史通りに、人間が勝利し動物たちが滅ぶ、という構図のまま終わった。お情け程度に、守り神が降らせた灰みたいなものではげ山が緑化するが、そんなものはごまかしに過ぎないとおもう。逃げの手段として、神がかり的な方法で、観客を煙に巻いたのである。アシタカが強烈に提起した自然破壊の問題は手付かずのままだった。宮崎氏が「風の谷のナウシカ」で問題にした人間とその他生物との対立は、結局、本作品でも答えを示すことができなかった。このような哲学的問題は研究者が解くべき問題だと言われてしまえばそれまでだけれども、宮崎氏なら、斬新な発想で驚かせてくれるかもしれないという期待が私にはあった。宮崎氏の思想が「ナウシカ」止まりで、進歩が見られなかった点は残念でならない*2
もののけ姫
(私の評価★★★☆☆)

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*1:封切直後に監督の宮崎駿氏はインタビューに「これが私の最後の作品になる」と発言していた。しかしその後、宮崎氏はこの発言を撤回し「千と千尋の神隠し」の制作に取り掛かる。

*2:のちに知人のF氏から教えてもらった、本作品に対する次の評価も興味深い。「この映画に出てくる、エボシ率いるタタラ製鉄集団は、一見、悪役に見える。しかしこの集団は、売られてきた女性や身体障害者などを積極的に受け入れ仕事を与えており、多様な人間がそれぞれのできる範囲で職分を果たし社会を支えていくという、一種の社会の理想郷だ。そんな理想郷の集団でも、結局は、環境問題となれば動物たちと対立してしまう、という宿命論を描いている点で、この作品は深くなっている」