ローランド・ジョフィ「The killing fields」

キリング・フィールド スペシャル・エディション
サム・ウォーターストン ローランド・ジョフィ ハイン・S・ニョール ジュリアン・サンズ

おすすめ平均
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1. 作品概要(AMAZONのレビュー)

 70年代のカンボジアでは内戦が続いていた。ニューヨークタイムズの記者シャンバーグは、現地で取材助手のプランと知りあう。だが共産勢力「赤いクメール」が攻勢をかけ、シャンバーグは帰国、プランは捕らえられてしまった。
 実在の記者シドニー・シャンバーグが書いた、ピュリッツァー賞受賞作の映画化である。ロン・ノル政権と「赤いクメール」の内戦に、見も心も焦土化したカンボジアを描く。常に生命が危機にさらされる内戦下の状況を鮮烈に映しだし、友情とはなにか、生きるとはなにかを問う。
監督は、これがデビュー作となったローランド・ジョフェ。主人公シャンバーグには名わき役のサム・ウォーターストンが、現地助手プランには、実際にカンボジア難民のハイン・S.ニョールが扮している。85年アカデミー助演男優賞ほか、全3部門を受賞した。

2. 作品評

85年度のアカデミー撮影賞を受賞しただけあり、カンボジアの映像が非常に美しい。広がる田園風景、そして熱帯性森林、思わずうっとりするような景色だ。しかし、映画で描かれる人間社会は、ポルポト共産党政権下での奴隷社会であり、家畜同然に扱われる国民たちの生活にぞっとさせられる。
a. ノンフィクション映画につきまとう葛藤
 映画での裏話として興味深いものがある。本作品の助演のハイン・S.ニョールはカンボジア人であり、ポルポト政権下での地獄の4年間を生き延びてきた生き証人である。彼が撮影中に、監督のローランドに「クメール・ルージュの振る舞いを実態どおりにもっと過激にしてくれ」と進言したが*1、ローランドは受け入れなかったという。ローランドは、欧米の客がスクリーン上の残酷シーンにどこまで耐えられるかを考えた上での判断だったという。この作品が発表された1980年代は、今ほど残酷なシーン対する人々の耐性ができておらず、そのような表現に対しては不寛容だったのである。結果、興行的にはローランドの判断は正しかった。本作品は大ヒットし、アカデミー賞を3部門も受賞した。
 この問題は、ノンフィクション映画に常につきまとう課題である。ノンフィクション映画は、もちろん事実に忠実でなければならない。しかし一方で、巨額の制作経費をスポンサーから捻出してもらっていため、映画をヒットさせなければならない。事実に忠実でありながら、観客の支持を得る作品づくり。扱う作品によってこの両立は非常に難しくなり、ローランドが本作品で取ったように、どちらかを取って、どちらかを諦める判断が必要になる。
キリング・フィールド スペシャル・エディション
(評価★★★★☆)

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*1:たとえば籐で作ったムチで打たれながら農作業を強制される農民、万力で頭を締め付けられて拷問される農民、妊婦の腹を切り裂いて胎児を引きずり出すクメール・ルージュなど。クメール・ルージュの実態については、ハイン・S.ニョール他「キリング・フィールドからの生還 わがカンボジア殺戮の地」本多勝一「検証・カンボジア大虐殺」等の書籍が詳しい。