野島伸司脚本,江口洋介,福山雅治「ひとつ屋根の下(1)〜(4)」
ひとつ屋根の下〔1〕 | |
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1 作品における毒の量とヒットの関係性
本作品は、『高校教師』(`93)以降の野島作品のなかでは毒の少ない作品の一つであろう。ここにはかつて本欄のドラマ評でも書いた『高校教師』のような教師と生徒の愛や近親相姦や、『聖者の行進』の過激な暴力シーンなどの刺激物は少ない。そればかりか主人公の達也は明るいひょうきん者で、そのコミカルな振舞いは笑いすらさそう。93年以降の野島にとっては異色作の部類にはいるであろう。
『高校教師』(`93)以降の野島作品は、ストーリーに敢えて毒を盛り込むことで物語に緊張感をもたらし、その対極にある純愛や友情をじわりと浮かび上がらせる手法をとってきた(暴力エッセンスと表裏一体の関係にあるピュアな恋心)。この意味では本作品は、毒の注入量がすくなく緊張レベルは低いが、それゆえにストーリーに明るい雰囲気が出て、ひろく一般受けした。数々の名作を書いた野島だが、本作品は彼の最高視聴率ドラマなのである。
2 主題歌と役者とその他について
野島伸司はつくづくドラマの主題歌選びがうまいと思う。本作品の主題歌の「サボテンの花」(財津和夫)は、やさしさに満ち溢れた歌で、本作品の設定・テーマにジャストフィットしている。過去にも『愛しあってるかい!』の「学園天国」(小泉今日子)、『高校教師』の「ぼくたちの失敗」(森田童子)、『未成年』の「TOP OF THE WORLD」(カーペンターズ)、『プライド』の「I was born to love you」(QUEEN)と、作品ぴったりの選曲をし、これらの歌をリバイバルヒットさせた。新曲でも『101回目のプロポーズ』の「SAY YES」 (CHAGE&ASKA)をヒットさせている。
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残念に思った場面もある。まず第一は、バラバラだった兄弟がひとつ屋根の下に再びつどっていく場面。警察がもて余すほどのワルだった和也はまたたく間に家庭的になり、自閉症の文也もさほど時間をおかずに活発になり、雅也につけては養子先の家庭環境にさほど不満もないのにそこを捨て、兄の家に戻ってしまった。わたしが書くのだったら、それぞれが兄の家に帰るまでの過程をもう少し丁寧に描き、人間らしい心境の変化スピードを担保するのだが。また小雪が何回か言った「ウサギって、淋しいと死んじゃうんだよ」というセリフは、セリフセンス的にどうか、と思った。また、最後のマラソンシーンでゴール前で転んだ達也が、ゴール地点にレイプされ傷ついた小梅が立っているのを見て奮い立ち、立ち上がりゴールするシーンは、すこし臭い、と思った。
3 連続ドラマを書くコツ(いかにトラブルを起こすか)
今回の作品を見ていて、ドラマを書くうえのコツが一つ分かったような気がする。連続ドラマを書く上で視聴者を飽きさせないためには、物語の一話、一話にトラブルを発生させる必要がある。難しいのは、どう継続的に物語にトラブルを起こさせるかだ。野島の作品を見ていると2通りあるように思われる。一つは『高校教師』のように衝撃の事実をひとつひとつ並べていく方法。もう一つは、本作品のようにすれ違いを毎回演出していく方法だ。前者については以前のわたしのドラマ評で述べたので、今回は後者について言及したい。
本作品の「すれ違い」とは、しっかり話し合わないがために生まれる兄弟間の「すれ違い」だ。たとえば身体障害者の弟・文也を普通校に入れようとするエピソード(5回「車椅子の弟へ」)では、長男の達也は嫌がる文也を無理やり連れて学校に乗り込み、校長先生と直談判する。しかし、これに他の兄弟は「文也が可愛そうだ」と反発する。「文也が幸せになってほしい」という想いは兄弟みな同じなのに、「それをどうやって実現させるか」という段になって、長男の達也は勝手に決めて勝手に行動するので、他の兄弟は反発する。和也が会社を首になるエピソード(11回「引き裂かれた絆」)も、達也は和也の言い分をまったく聞かずに怒るので、和也は兄に対する信頼を失くしてしまう。レイプされた小梅の裁判騒動エピソード((11回「引き裂かれた絆」)でも同じことだ。達也は裁判を勝手に決め話を進めるので、他の兄弟は猛反発する。お互い良かれと思ってやっていることなのだが、事前にしっかり話し合わないため、すれ違いが起き、兄弟の絆にヒビがはいる。
つまりは、「ひとつ屋根の下」で起こる兄弟間のトラブルは、事前にしっかりと話し合っていれば起こらなかったものばかりなのだ。話し合わず、人の話をしっかりと聞かずに、勝手な思い込みで発言し行動するので、反発が起こり、トラブルになる。ここが脚本を書く上でのポイントだ。すなわち毎回トラブルを作っていくひとつの方法として、「事前にしっかり話し合わない」「人の意見を聞かない」と状況設定し、登場人物をすれ違わせ、トラブルを作り出すのだ。そして毎回トラブルを解決させ、「想いは同じだったんだ」と結び、視聴者に感動を惹起させる。これが野島伸司の脚本の方法論のひとつと思われる。
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(私の評価★★★★☆)
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